2016-10-18

受刑者労働 楽すぎ?

 A市の刑務所で爽やかな汗をかいているのは、冤罪で8年もの懲役に課せられた人望の厚い模範囚である。彼は1年目の冬には無実を主張することを諦め、代わりに刑務所での生活を豊かにしようと、ことあるごとに看守に意見を申し出た。

「看守さん。仕事を与えてくれるのはよいのですが、報酬がここでは何も価値のない、しか雀の涙ほどのお金では士気も上がらないってものですよ。このままでは更生する前に精神が壊れてしまう」

そういうと、ささやかながら3時のおやつ支給されるようになった。

「看守さん。仕事時間が長すぎます仕事ストレスを与え続けるよりも、運動時間を増やしたほうが腐った心が洗われると思います

そういうと、労働時間が見直され、体を動かす時間が長くなった。

その他にも食事や寝具など、この男の進言で様々な改革が起こり、今やこの刑務所は彼の理想環境へと変化していた。

 そして8年目の春、刑期を終えた彼は名残惜しつつも刑務所をあとにした。自らの進言により就職先を斡旋してもらっていたので、彼は次の日から会社員になり、愕然とした。

毎朝満員電車に押し込められ、薄給にも関わらず終電ギリギリまで働き、家に帰ればただシャワーを浴びて寝るだけの生活懲役を受けているときよりも自由から遠ざかったように思えた。

 彼は耐えられず上司労働環境改善上司に訴えた。

刑務所では勤務時間が定まっていて、残業などありません。ここの労働環境刑務所よりもよっぽど酷いです。ただちに対策を練るべきです」

「そうか、わかった。事実関係を改め可及的速やかに善処する」

 上司がそう答えて数ヶ月、改善される兆しすら見えなかった。

「あの、この前お話した件なのですが。何か具体的な対策はないのですか?」

「そのことならもう解決済みだ」

「え?そのようには見えませんが」

出所した受刑者が勤務に順応できるよう、刑務所内での労働時間を長くしてやったよ」

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