2016-05-31

スマホ以前の暇つぶし

 現代暇つぶしといえばスマホである電車内や駅のホーム外食店の待ち時間会社の昼休み、どこを見ても必ず誰かはスマホをいじっている。かく言う私もスマホをいじっている。スマホで何をしているのかは知らないが、多くの人がスマホをいじって暇をつぶしている。

 で、ふと思ったのだが、スマホが普及する以前はその時間に何をしていたのだろう。いや、この場合は「スマホ」より、「携帯電話」と言った方が良いかも知れない。まあとにかく外で気軽にメールSNSネット閲覧が出来ない時代に、私たちはどうやって暇をつぶしていたのだったか

 ぱっと思いつくのは、読書新聞音楽くらいである。携帯ゲーム機も昔からあるけれど、年齢を重ねるにつれ、外でやる人は少なくなっていく。スマホゲームをやる人は多いだろうに、不思議ものだ。あとは物思いに耽るか、電車では寝ている人も多い。マイナー暇つぶしは他にも色々あるかも知れないが、メジャーなのはこのくらいだろうか。

 書いていて思い出したのだが、小学生の頃に、母親携帯電話を使って、電車や車でずっとゲームをしていたことがある。まだ携帯電話庶民に普及して間もなく、画面も緑色の背景に黒い文字という、今からすると驚くべき代物だった。ゲームドラクエシリーズの何かで、大したものでもなく、家にあるスーファミと比べると遥かに見劣りするものだったと思うが、それでも私はそのゲームをするのがとても楽しみだったのを覚えている。

 携帯電話という未知の電子機器に魅力を感じていたとか、ドラクエが大好きで仕方なかったとか、そういうわけではない。そのゲームは私にとって、母と二人だけの、小さな秘密だったのだ。

 携帯電話ゲームといっても、それは無料で気軽にできるものではなく、月額でいくらか掛かるものだった。具体的な金額は忘れたが、小学生の私にとっては大金で、母としてもそう易々と許して良いものではなかったのだろう。しかし、やはり母は私に対して甘かった。

 「お兄ちゃん達には内緒ね」

 兄に話すと不公平だなんだと煩いので、そのゲームのことは秘密にしておき、母と二人だけで電車や車に乗っている時だけ、私はゲームを進められた。そして、いつもゲームの話をする兄には言えないので、強い敵を倒しただの、かっこいいモンスターが仲間になったのということを、母に自慢するようになっていた。

 すごいねえ、と私の話を聞いて微笑む母は、きっと何がすごいのかはよく分かっていなかっただろう。それでも私の拙い言葉に耳を傾け、一緒になって喜んでくれた。そんな母の優しさが、そして他愛もない二人だけの秘密が、幼い私にはとても心地よく、いま思い出すと、すこし切ない。

 閑話休題スマホの話だった。いや暇つぶしの話か。ちょっとした待ち時間など、人生には「暇な時間」がとても多く、そのほとんどは吹けば飛んでしまうような、記憶にも残らないものであるしかし、あるいは、私の幼い日の秘密のように、ふと思い出され、郷愁を誘う「暇つぶし」もあるだろう。

 人生における暇つぶし、みんなは何をしてきたのだろうか。そしていま、何をしているのだろう。

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