ところがちょうどそのころ聖都シュワの墓所に戻った皇弟は、神聖皇帝の片割れ、超能力を持たないが故に組み敷かれてきた皇兄ナムリスのクーデターによって殺されてしまう。皇兄は人工生命、不死身の怪物ヒドラの軍勢を従え、「恐怖と歓喜の火のような日々を生きるために」自ら出陣する。
ついに本格化した大海嘯の中、いまや戦線は完全に崩壊し、トルメキア軍も土鬼各国の軍勢も撤退を開始し、大量の土鬼の民衆が難民となって動き始めた。その混乱の中ナウシカを探すユパたちは、脱出の方法を失い、兄皇子捜索隊が来たらその艦を乗っ取ることに一縷の望みを賭けて待ち伏せていたクシャナたちを発見する。
クシャナは部下の生命と引き換えに降伏する。アスベルはペジテの仇を前に激昂するが、ユパの説得により復讐を思いとどまる。救出されたクシャナはユパに、大海嘯の後にこそ、残された土地をめぐって戦火が再燃し、より多くの命が失われるのではないか、と問う。かつて古エフタルがそうであったように。「真の王道を歩むものが出現しなければ人間は滅びる。」と彼女は他人事のように言う。
ナウシカたちは粘菌の追跡と難民の救出に奔走するが、粘菌の勢いはとどまることなく大地を呑み込んでいく。「どんな生命でも喜びや充足を知っているのに、憎しみと恐怖しか知らない」粘菌にナウシカは深い哀しみを覚えるが、その粘菌を追跡して力尽きた「腐海」の蟲達の死骸を苗床して生えてくる「腐海」の植物の芽を見て、新たな結論に到達する。
「助けを求めている南の森」とは、人間の作った粘菌に蹂躙される自然のことではなく、異質な環境に放り込まれて恐怖に怯えていた粘菌自体のことだったのである。蟲達は粘菌を攻撃するためにではなく、それを食うことによって「腐海」の生態系の中に取り込んで安定化するために来たのだ。この結論に絶望したナウシカは、暴走する粘菌の合流地点で蟲の群の本隊、王蟲たちの到達を待ち、そこで、ともに「森になろうとする」。しかし死に際の一匹の王蟲が彼女を飲み込み自らの漿液で保護し、かのじょはそのまま眠りに付く。
ユパとクシャナはクシャナの軍が立てこもるサパタの都城に到着するが、そこはすでに瘴気に覆われ、本隊は脱出した後で、わずかな留守番の兵士達はヒドラに襲われて全滅していた。さらにそこに襲来したヒドラの部隊にクシャナは拉致され、後を追ってヒドラの母艦にとりついたユパは皇兄に会う。
彼はクシャナを妻としてそのトルメキア王位継承権と第三軍を手に入れ、トルメキアに侵攻して土鬼トルメキア二重帝国を作り上げようと野心を抱いていた。生き残りの兵を救う為にクシャナはその提案を受け入れる。
難民達を指導して何とか秩序を取り戻そうとするチャルカは、民衆が大海嘯の到来に絶望し、彼らを救いに飛び回ったナウシカを「青き衣の者」、ただし現世において救いを示すものではなく彼岸へと救済をもたらす者と信じ、腐海に没した故郷で安らかに死にたいと願うのを見て焦燥に襲われる。「おなじ予言が時には生への希望と成り時には彼岸への憧れとなる」。「僧会は人民になにをしてきたのだ虚無をはびこらせただけなのか・・・・」