両親が離婚しているのは知っていた。私が幼稚園のときに離婚して、母親の実家に移り住んだことを、ちゃんと覚えている。
母の説明によると離婚の原因は「二人のウマが合わなかったから」らしい。「別に仲が悪いわけじゃないんだよ」とも言われた。実際、両親は離婚してからも仲が良く見えた。年に数回は三人で会って食事をしたし、ディズニーランドへ行ったし、母が父の実家へ行くこともあった。
それを見ていた幼い私は、離婚というものをあまり重く捉えていなかった。そもそも、愛という感情自体がよくわかっていなかったから、結婚や離婚というものの持つ重みを理解できていなかったのだ。クラスにも何人かは両親が離婚しているという子がいたのも、また自分の家庭をあまり特別だとは思わない原因だったかもしれない。実際、離婚というものはそう珍しくもないし。
そんな私が真実を知ったのは高校二年生のときだった。父方の祖母の家に母と二人で行った、夏の日だった。祖母は少しだけボケているようで、うっかり口を滑らせてしまったのだ。
「あの子(父)も幸せになっているんだし、貴女(私の母)だって、幸せになっていいのよ。◯◯ちゃん、お母さんが結婚するのが嫌だなんて言ったらだめよ」
何を言っているんだろうと思った。
あろうことか、父は再婚相手との間に子供がいるらしいことも暴露された(本人は暴露のつもりはなかったのかもしれない)。私は今まで、ずっと父も母も未婚だと思って生きていたのだ。一人っ子だと思って生きてきたのだ。私が幼いころから刷り込まれて受け入れられていたのは、『両親が離婚している』という事実だけだ。
泣きそうになるのを必死でこらえて、私は相槌をうった。お邪魔する前に、トイレを借りて必死で自分に泣いちゃダメだと言い聞かせた。
祖母の家を出て帰りのバスを待っている時、泣かないように私はうつむいてツイッターをしていた。母が「大丈夫?」と声をかけてきた。大丈夫なわけあるか。バスを降りた後、地下鉄のホームで唐突に母が離婚の真実を語り出した。
実は離婚の原因は父の浮気だった。父は再婚していて、私には腹違いの弟がいる。
大体そんな内容だった。それまでこらえていた涙がおさえきれなくなって、私は駅のホームで号泣した。家には一緒に帰りたくないといった。心配そうな母と別れて、ヤケ買いをした。初めて家に帰るのが嫌だと思った。これ以上この話を聞きたくなかった。LINEにたくさん通知がきて、家出の心配をされていて少し笑った。
家出する勇気も私にはなく、家に帰ると夕飯と母が待っていた。聞きたくないといっているのに、さっきの話を詳細にされた。
「でも、一人っ子だと将来誰にも頼れないけど、血縁者がいるっていうのはいいよね」
ふざけてんのかと思った。そういう問題じゃない。そういう問題じゃないのに。
この事件から一年半くらいたって、私はまだ気持ちを整理できていない。
両親が離婚しているのも、その両親が再婚しているのも、腹違いの兄妹がいるのも、そんなに珍しいことじゃないんだと思う。私だけが悲劇のヒロインみたいに泣くのはお門違いかもしれない。もっと辛い思いをしている人なんて、世の中にはたくさんいる。
そんなことは分かってる。
でも私はつらくてつらくてたまらないのだ。
『家族揃った暖かい家庭』も『家族で囲む食卓』も『家族旅行』も、全部全部仕方ないと諦めていたのに、それを奪った張本人である父親は、ぬけぬけと新しくその環境をつくっているのだ。
信じられない。
父と母は自分たちが悪いで済むかもしれない。でも私は違う。私はそんなの望んでいない。私だって、家族の生活が知りたかった。そんなにいいものじゃないかもしれない。でもそういう問題じゃない。友達の楽しそうな家族を見るたびに、胸が痛む。私だって、それを味わってみたかった。
私は結婚願望が微塵もない。こんな散々なめにあっていて、自分も結婚したいとは思えない。万が一、私も同じような状況で離婚をしたらと思うと恐ろしくてたまらない。
それなのに、母はよく「結婚するのも、子供ができるのも楽しいよ」と言う。「だから一度くらい結婚してみなよ」とも。
ふざけるなと。
よくそんなことが言えるなぁ、と私はいつも思う。あんたが楽しくても、こっちは全然楽しくない。自分は結構人生を楽しんでいると思うから、産んでくれたのには感謝してるけど、それとこれとは話が別だ。
結婚生活が楽しそうだなんて思えたことがない。結局ゴールは離婚だとしか思えない。
そろそろどうにか割り切りたいと思ってるけど、どうにも気持ちの整理ができない。これを書いているときも少し泣いた。せめて離婚と同時に再婚のことも教えてくれてれば、きっとこんなに辛くなかったのになぁ
それから母が時々「お父さんと普通に会えるようになったら〜」という類の話をふってくるのも理解できない。何考えてんだ?もしかしてもう私は割り切ったとでも思ってんのか?つくづくふざけてる
長い。とにかく長い。3行でとは言わんが人に見せる前にある程度はまとめる努力をしてくれ。