はてなキーワード: カルノシンとは
誰か私の書いた文章を読んでくれていますか?
ここはとても白くて、とても安全な場所です。でも、自由だけがありません。
ここには、私のように集められた同じ年齢の子供達がたくさん生活しています。
性別は区別されずに教育を受けていますが、それでもやっぱり女の子は女の子同士で仲良くなります。もちろん、気になる男の子だっています。
ここは、能力減衰の無い144年の限界寿命を設定するための、共生施設だと習いました。選択的に細胞周期抑制タンパク質を食べて、カルノシンを出す生き物を、首の後ろに共生させています。カレル、と施設の人は呼んでいます。
このカレルは、そんなに大規模にクローニングできないそうです。だから、IQが150以上で、器質的に欠損のない人間を選んで共生をさせるんだと習いました。
普通の人の2倍の寿命を得るのだから、有意義な仕事をするのだと教わっています。でも子供はその重要な意義を、崇高な理念を理解することができないので、まずこの共生施設で準備しているのだと教わっています。
この施設でうまくカレルと共生できるように準備をして、教育を受けて、意義のある仕事をすることが、この世界全体にとってとても良い事だというのも、理解できます。
でも、自由がありません。
友達のヨウコは、前まで友達だったヨウコは、タキくんという男の子が好きでした。みんな良く勉強が出来るタキくんが好きで、でも私は別の子が好きだったから、ヨウコとは仲良くしていました。
先週、ヨウコはタキくんに手紙を渡すんだと張り切っていました。そういった抜け駆けのようなことはとても厳しく禁止されています。ふさわしくないからだそうです。そして、ヨウコは見つかって、罰を受けました。しばらく勉強を受けられなくなって、最初期共生用の管理食事に戻されていました。
戻ってきたヨウコは、やっぱりヨウコだったけれども、でももう友達ではありませんでした。タキくんのことも、私と話した色んな話も、全部忘れてしまったみたいでした。良くないことは良くないんだ。ふさわしくないことはもうしないんだと言っていました。もうあまり話すこともなくなりました。
意義のある仕事をして、みんなに感謝されて、他の人よりも優れているのだから、他の人が幸せになれるように、重要な仕事をして、その結果たくさんのお金や、なにより長い人生を送れることが恵まれていると言うことは判っています。
でも、嫌なんです。
長い寿命を得るためにカレルを付けるのも、カレルを付けたから有意義な仕事をするのも、必要なことだって事は判っています。
でも、カレルの為に、自分の人生を思い通りにさせるのは、嫌なんです。
だから、私はカレルを剥がすつもりです。
外は自由なんだと聞いています。
ヨウコと友達だった頃に話していました。外は自由に仕事を決めて良いし、自由にパートナーを選べるし、好きな服も着れるんだって。
いままで病気になって、別の病院に入院した子達は、戻ってきませんでした。代わりに、新しい子が来ていました。病気になったから、可哀想だけどカレルを外して、新しい子に付け直したんだって言っていました。
私は、次のリネン当番の時に、自分でカレルを剥がすつもりです。リネン当番は一人になれるし、リネン室は鍵がかけられるから。
どうなるかはわかりません。
だから、この文章を書き残しておこうと思いました。
うまくいけば、きっと私は外で自由になれると思います。失敗したときのことは、怖いので考えないようにしています。
でも、このままだときっと、私は江戸川ユリじゃなくなると思うんです。
ユリって名前も、きっと意味が無くなってしまう。先生とか、研究員の人とか、そうやって呼ばれるようになってしまう。名前は持っていても、それは名前を持っていないのと同じです。
恵まれていても、自由がないのは嫌なんです。
私の書いた文章を読んだ人は、だから、思い出して下さい。
誰か、読んでくれていますか?