※筆者は女
小さいときのことはよく覚えていないが、多分自分のことを"あたし"とか言っていたと思う。
小学校に入って、高学年になり、親友が銀魂系オタクになった。所謂俺女だ。自分は銀魂こそ読んでなかったものの、親友の姿がかっこよくて、真似して"俺"と言うようになった。最初はカッコつけだったけど、すぐにその言葉は自分のものになった。
そして中学校に入り、全く新しい友達(中学受験した)とつるんでいく中で、だんだん精神が丸くなっていった。自覚はあまり無かったが、中高一貫の6年間ずっと一緒だった親友に聞いてみると、自分はえらく丸くなったらしかった。
その言葉はとてもしっくり来た。最初からそこにあったみたいに。"僕"と呼ぶことで、自分自身が性別を超えた、何かニュートラルなものになれた気がした。性自認は全くの女だけど、語り手としてはニュートラルでいたかった。
"俺"はだんだん使わなくなった。高校に上がる頃にはもう全く使ってなかったと思う。
そして大学生になって、バイトをはじめた。普通の飲食店のホール。高齢者ばかり来る店なので、言葉遣いは厳しく指導された。
「普段使う言葉が咄嗟の時に出てくるから、日常的に綺麗な言葉を使いなさい」というのを店長から口酸っぱく言われたものだ。いらっしゃいませ、とか〇〇円でございます、とか、定型文は覚えるだけでいいけれど、定型の会話以外のところでそれを痛感した。普段の言葉に"です"と"ます"を付けた言葉しか咄嗟に喋れなかった。その実感があって、店長の言葉は自分の中で重いものになった。
プライベートな場面だけでも"僕"と呼び続けていると、いつか就職面接や、大事な場面でポロッと出てしまうかもしれない。そう思うとちょっと印象は良くないなと感じた。
"僕"という言葉、自分はニュートラルに感じているけれど、世間一般ではそうじゃない。
その位置を占めるのは"私"だ。
やっぱり、今後のことを考えれば、"私"と言った方がずっといい。そう思った。
それで、頑張って言葉を矯正した。半年もすればすっかり"私"が一人称になっていた。
しかし、"私"、もしくは"あたし"という言葉は、なんとなくしっくりこない。矯正の効果はバッチリで、無意識に出る言葉はもう"私"だが、そう言う度に違和感がある。"ぼく"よりは語感が良くないし。
この違和感はなんだろう。("あたし"はさすがに女言葉だけど)"私"と言っている限りはこれはニュートラルな言葉のはずだ。なのにどうして。