一人飲みをするのは知らない隣人とのお話が好きだったからで、その人に就活のこととか私自身のことを聞かれたのでしゃべっていた。
そうしたら興味をもってくれたみたいで、ちょくちょくサシで飲むようになった。全部おごってくれるので、貧乏大学生からするとありがたかった。
「俺はお前をうちの会社には入れないからな、自分でがんばれよ」
結局、会社は違えどお偉いさんと同業種の仕事に就くことになった。
職人気質というか、上を見て学んでいくような業界だったので、先輩として色々気にしてくれて、たまに飲んでた。
といっても大体お偉いさんの話を聞く会みたいな感じで、ちょっと面倒だったけど飲食代が浮くし、仕事関係の本を譲ってくれることもあったのでありがたく参加してた。
すると「お前の会社はダメだ。うちに入れてやる」と言われるようになった。
正直嬉しかったんだけど、その気持ちがありがたいです、と言って本気にしていなかった。
飲むと気分が良くなるタイプのおっちゃんなので軽く流してはいたけど、ある時あまりにもしつこかったので一度キスをした。
すると三軒目のバーで飲んでいたとき、スッとパンツの中に手を突っ込んできた。
もうマジで硬直。パニックになると体が動かないもんだね。呆然としてたら、
「若いうちは自分を犠牲にして色々するもんだぞ。お前はそこで『やめてください』って言わないからいい」
って言われた。つまり若いうちは年長者のされるがままでいろ、と。
お酒やごはんをおごってくれるのも、「うちの会社に入れてやる」といったのも、全部ヤりたいだけなんだなって思った。あと「会社入れてやるって言えば抱ける」って思われてたのがショック通り越して面白かった。
「この間は本当にごめん」
「もうしないから」
「謝りたいから飲んでほしい」
と言われたので、飲みに行った。
謝られたので「いいですよ」と言ってお酒を飲んでた。
でもまた三軒目のお店でパンツの中に手を突っ込まれた。拒否すればいいじゃんって思うかもだけど、意外と入っていくのを見ているしかできないものだった。頭のなかでは、
「いままで奢ってもらってたしな」
とか思って、動けなかった。この人はこういうことを一生辞めないんだろうな、って思った。
いまでもこのお偉いさんからたまに「仕事を回したい」「前に渡した本、やっぱり返して」「そしてまた飲もう」という連絡が来る。返すべきものは郵送で返してもう会ってないし、地元からは引っ越した。
トラウマ過ぎて最近やっとまともにこの記憶と向き合えるようになった。
仮に私がお偉いさんの会社に死ぬほど入りたかったら、たぶん言いなりになって、最終的には寝てたと思う。
寝たからって内定が約束されるわけじゃないけど、藁にもすがる思いでお偉いさんに抱かれる大学生ってのは、一定数いると思う。
だとしても、目上の人間が目下の人間に奢るのって「俺が払ってるんだから、こいつのことは好きにしていい」ってことなんだろうか。お礼に抱かれなきゃいかんのだろうか。
元増田は相手を財布だと思ってたし、相手は元増田を穴だと思ってた。 それだけの話。