2014-07-30

乳国

国道の長い坂道を下ると乳国だった。

浜辺の女性がきらきらしていた。

おのずと足が止まった。

海へ来るのはいつぶりだろう。

さいころ、うきわを抱えて遊びにきた記憶はあるが、あれからだいぶ時は経っている。

青い空に青い海、陽の光をあびたビーチの景色まで、あのときと何ら変わりないはずなのに、今日はなぜだか、幼いころとは全くちがう高揚感に充ちている。

さあ、海へ飛びこむぞ!って思った小さな自分から、さあ、乳へ飛びこむぞ!って思う大きな自分への変化は、成長のあかしでもあろうか。

なにはともあれ、常夏の天国めがけ、俺は砂浜への一歩を揚々と踏みだした。

水しぶきがきらめく渚のあたりへ歩を運び、海水に両手を当てて、ついた滴をぺろっと舐めてみる。

さびさの夏の味に満足し、足元にころがる桜色の貝殻をひろったら、いよいよ、浜を左方向へすすみ始め、色あざやかなビキニを拝見する。

の子は薄緑色かわいいけれども、すこし膨らみがさびしいかな、あっちはどうだろう、花柄がいささか派手すぎるようにみえるものの、あの爆発しそうなボリュームには案外ぴったりかもしれない。

おお、あそこの女子3人組は、皆ほどよいサイズで形もよい。やはり類は友を呼ぶのだろうか。

ふふふ、っと心の中でにやにやしていると、

お兄さん、シャワーどうですかー?

と、海の家の兄ちゃんがいかにも面倒くさそうに声をかけてくる。

暑いのに大変だ、と同情するが、ほんとうに大変なのは真夏海岸を、長ズボンスニーカーで歩く自分であると今さら心付いて、ちょっと恥ずかしくなる。そもそもリュックサックを背負って歩く人間はほかに見当たらない。

とりあえず、それっぽく腕まくりをして、リュックを肩に掛け、靴を脱ぎ裸足になってみた。これなら怪しまれずにすむだろう。

ビキニ観賞はなおもつづく。

こうして歩いていると、正面からやってくる美女めぐりあう機会も幾度となくあるのだが、涙をのんでやり過ごすことも少なくあるまい。観賞はあくま紳士的に、ばれぬようにしなければならないのだ。したがって、しぜん対象は浜で寝そべる女へと向けられる。

横向きになった乳は、重力によって形がくずれ、そのやわらかさを感じさせるに十分な様相を呈する。ああ、グラビア写真で見るのとおんなじだ。この指先で、遠慮がちに、つんつんってしてみたら、ぽよぽよって返事をしてくれるのだろう。乳ってすごい、すばらしい、さいこう。乳国の神に感謝したくなった。

もういちど往復しようか、と思ったけれども、そろそろやめておくほうが良さそうだった。

せめてもの罪滅ぼしのつもりで、海辺に散乱するごみを拾っていると、波打ちぎわの赤ビキニの尻へ、手を伸ばす男の影が。

くそバカップルめ、こんな場所でやりやがって。

そうねたむ折からママっはやく海で泳ごうよ!とはしゃぐ声と、ママのおしりタッチする小さな手。

ポケットから桜貝を取り、大きな手のひらに乗せてみたら、まばゆい日光さらされ、拾ったときよりも美しさをました気がする。

とりどりの水着と坊やの笑顔とに活力をえた俺は乳国を後にした。

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