2015-07-13

道徳の授業で大嫌いな話

道徳の授業で何をやったのか、他の教科以上に覚えていないし

授業を受けている当時もこの時間が何なのか、よく分からなかったが

猛烈に「この話嫌いだ!」と思ったストーリーがあったのを思い出した。

覚えているキーワード検索したらすぐ見つかり、「発車オーライ!」というタイトルということが分かった。

スピードを上げた特急バスが、小さな村にある見落としそうなバス停のいくつかを通りすぎたころ、突然前方の座席でなにやらトラブルが起こった。

「なんとか、とうげの手前のホロ町でおろしてもらえんかのう。」

と、車掌さんに声をかけているのは、年配のご老人だった。

 こまった表情の車掌さんは言った。

「お客さま、特急バスは決められた所しかお止めできないことになっているんです。   

それ以外の所でお止めして、もしもおりられたお客さまに万が一のことがありますとたいへんなことになりますので、規則でお止めすることができないことになっています

しわけございません。」

 おじいさんは、座席から立ち上がってさらにたのみこんだ。

「このバス特急とは知らんで、うっかり乗ってしもうたんじゃ。

ホロ町にみんなが集まっとってのう。

わしがその責任者だもんで時間までに行かないとみんながこまるんじゃよ。

なんとか止めてもらえませんかのう。」

車掌さんはすまなさそうに言った。

「おじいちゃん、ごめんなさい。安全場所にお止めしておりていただくことはできるのですが、そうすると、おじいちゃんがおりたあと、ほかのお客さまから、「それならあそこに止めて。」とか、「私はここでおろして。」というご依頼をおことわりすることができなくなってしまうんです。

本当にすみません。」

「とうげをこえた所でおりたいんじゃ。

わしのこの足ではとうげをこえられんし、ホロ町の手前でおろされたんじゃ時間が間に合わん。こまったのう、こまったのう…。」

 おじいさんは、鉄ぼうにつかまったままぶるぶるふるえだした。

車掌さんは運転手さんと話しこんでいる様子。

 乗り合わせた人々も、他人事と思えなくなり、まるで自分がこの難問の答えを出さねばならないかのように、おじいさんを見、車掌さんを見、車外を流れる景色に目をやって何かよいアイデアはないものかと気をもみ始めた。

「なんとかできないものかなあ。それにしても車掌さんも車掌さんだ。

おじいさんがあんなにこまっているのに、運転手さんと話しこんだりして…。」

と、まちがえて特急バスに乗ってしまったおじいさんよりも、運転手さんとおしゃべりをしている車掌さんをせめる気配が出始めていた。

そうこうしているうち、前方に急な坂道が続く山が見えてきた。あれがとうげだとすると、そろそろこのあたりがホロ町になるのだろう。

 そのときだった。それまで、話しこんでいた車掌さんが、運転手さんの言葉にうなずくと、ゆっくりとふり向き、客席に向かって姿勢を正して言った。

「お客さまに申し上げます。当バスはこれよりとうげにさしかかりますので、念のためブレーキテストを行いますブレーキテスト開始。」

 特急バスは、徐々に速度を落として静かに止まった。

「ドアー開閉チェック、開始。」

 昇降ドアーがスーッと手前に開く。

 右手で小さく乗降口の方を指さしながら、おじいさんに向かって目で合図する車掌さん。

 おじいさんはハッと気が付いて、乗降口に近づいていった。ステップを前にしてクルリとふり向いたおじいさんは、運転手さんと車掌さんに手を合わせ、何度も何度も頭を下げて降りていった。

 ゆっくりとドアーがとじる。

「ドアーの開閉チェック完了ブレーキテスト完了。発車オーライ。」

ブル、ブル、ブルルーン。エンジン音をひびかせて特急バスは走り始めた。

と、同時に車内に大きな拍手がわきおこる。

 走り出した特急バスに向かって両手を合わせ、頭を下げているおじいさんのすがたが小さくなり、やがて見えなくなった。

道徳の授業終わりに毎回書くことになっている感想文に

  • 無理なことをさせようとするおじいさんが嫌いだ
  • 降ろさないと「みんなが困る」という理屈卑怯
  • 申し出にいちいち答えられないという返答に困っただけで押し切ろうとするおじいさんが嫌いだ
  • 車掌さんをせめる気配」って何だ、気配でルールを変えるな
  • ブレーキテストは峠の有無に関係なく出発前にやっておくべきだ
  • テストという理由を付ければやっていいのか、それは違うだろう
  • ドアの開閉テストなら乗客を下ろすな
  • これはドアの開閉テスト中に乗客が落ちたのと同じだ、危険行為
  • 拍手していい話になっているがそんなことはない
  • これは道徳ではない
  • おじいさんが嫌いだ

上記のような内容を延々と書いて先生に呆れられたと思う。

今になって読むと、当時の怒りまでは湧いてこないがやはり嫌いな話だ。

道徳の授業って結局何だったんだろう。

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