「君だけは最後まで俺の訛りを笑わなかったな、笑わなかったのは君だけだ。ありがとう、嬉しかった。次の職場でも頑張ってな。」
上司に呼び出され、解雇となった理由を説明されたが、曰く「弊社が求めるスキルと一致していない、お互いのために契約終了しよう」とのことだ。
悔しさと採用してくれたにも関わらず力になれなかった申し訳なさでこれ以上なく気まずい思いではあったが、お世話になった方々への礼儀を欠かす訳にはいかない。
一人一人に退職の挨拶をして回ったが、僕の教育係だった男性(以下Aさんと呼ぶ)は、上記の言葉を言いつつ、少し目尻に涙を浮かべながら本当に寂しそうに別れを惜しんでくださった。
Aさんはとある地方の出身で、地元では仕事がないという理由で都会に出てきたのだそうだ。
確かに明らかにその地方の出身とわかる程に訛りや方言が強い方ではあった。
彼自身も自覚があったようで、僕の教育係になった時も「俺は方言が強くて分かりにくいこともあるだろうけど、許してな~」と言っていた。
あまりの訛りの強さに周囲の同僚は彼が話す際には(たまにではあったが)「Aさんまさに典型的な田舎者ですよねぇ~」などと馬鹿にしたような口調でせせら笑ってみたり、彼の口調をからかい混じりに真似したりしていた。
Aさんもそれを苦笑いしながらも流していたので、「仲良いんだな~」程度にしか思っていなかった。
彼は表面上はにこやかに笑って明るく振る舞っていても、心の奥底では確かに傷ついていたのだ。
話し方一つであっても、幼少期から培ってきた大事なものには変わりはない。それを笑われようものなら傷つくに決まっている。
なぜその程度のことも分からなかったのだろうか。なぜ周囲がよってたかってAさんを馬鹿にしていた時に止めに入らなかったのだろうか。
人が傷ついていることも察せられず、いじめの雰囲気にも疑問すら感じない。
いじめは加害した本人のみならず、それを見て見ぬふりをした人間も同罪のようなもの。
Aさんは感謝して下さったとはいえ、仕事が出来る出来ない以前に僕は人として間違っていたのだ。
Aさんには本当に感謝していると同時に、仕事の面でも多々迷惑をかけた上に、傷ついていたにも関わらず何もできなかったことで言い表せないほどの申し訳ない気持ちだ。
確かに仕事を早く覚えることは大事だが、それと同時に、これからは人の心をちゃんと慮れる思いやりのある人間になるつもりだ。
自分が直接の加害者にならないのはもちろん、間接の加害者にも決してならない。
それがAさんへの何よりの恩返しだろう。