数年前、なろうで書いていた異世界転生ものが出版されることになった。
連絡をくれた出版社はその時まで聞いたことがない会社で、詐欺ではないかと思ったものの
同様になろう小説を何冊か出版していて、その中にはそれなりに売れて有名なものもあったのですぐにそういう心配は消えた。
担当してくれた編集者A氏はその会社以前に日本国民なら誰でも知っている大手出版社にいた方で、
メールの内容が本当にわかりやすく質問にもこれでもかと回答をしてくれる、やり手の方だった。
何しろ仕事が早いのである。連絡が来るたびに「え?もうそんな」と驚かされるほどに物事がトントン拍子に進む。
挿絵を担当してくれた方も私はそれまで聞いたことがなかったし、そもそも編集者さんから誰がいいかと聞かれもしなかったが
サンプルを見せていただいた限り、ケチのつけようもなく、何より素人目に見て安定した絵であったのでそのままお願いした。
ゲラ刷りまで終わり、発売日がいついつだと連絡を受けた時点で尚契約書の話が出てこないのである。
私は不安になった。詐欺とまではいかないだろうが、出版した結果私は何らかの負債を背負うことになるのではないか?
もしかして「出版してやるからその費用を持て」などという話が飛び出してやこないか?ということが急に不安になったのである。
結論から言って私がお金を出版社に支払うということもなかったのだが、発売日を迎え書店にいざ自分の本が並んだその日においても
一体何部刷られたのか、私に印税としていくら入るのかわからない有様であった。
発売日の数日後、週末になって初めて私はA氏と初めて対面した。駅前のファミレスで渡されたのが出版契約書で、
発売されてから契約するのですか?と驚く私に対してA氏は「どこもそんなものなのです」と自信満々に答えた。
A氏のいう「どこも」には前職の大手出版社も含まれるという。その時になって初めて部数と印税の%を知った。
私の偏見であるが、出版社は吉本のようなお笑いの世界よりはだいぶお堅い業界に属しているものだと思っていた。