2019-04-28

原発火力発電のどちらが危ないかという話

京都大学に通っていたころ、ある教授がこんなことを言っていた。

原発事故で発生する被害はほぼ無限大いか確率が小さかろうと、∞を掛ければ∞なのだから期待値で考えれば原発は火力より危ないと言えるのだ。」

呆れるほど乱暴議論だった。京大教授ですらこんな滅茶苦茶なことを言うのかと思った。

(その教授は外部から来ていたうえ、一緒に聴いていた京大生は誰もまともに取り合っていなかったというのを知って安心したが)

上の主張がいかに酷いものであるか、賢明はてなー諸氏には一目でわかると思うのだが、一応書いておく。

  • ∞は数値ではない

数学的に∞とは、ある変数の変化に伴い際限なく大きくなっていく別の変数の「動き方」を示すのであって、単独で数値として存在するものではない。

原発事故被害は単に物凄く大きな「有限の値」にすぎない。

仮に有限の物凄く大きな値を、簡単のため∞と置くことが許されたとしよう。

そうであるなら、有限の物凄く0に近い値は、無限小簡単に言えば、「ほぼ0」)と評価しなければ割に合わない。

原発事故の発生率は、見積もりが大きくバラついているものの、だいたい数千年~数万年に1回という話だから、これを「無限小」と評価しないのは釣り合いが取れないだろう。

ちなみに数学的には、無限大×無限小の掛け算は「不定である

原発ほどではないが、火力発電所事故も相当ひどいものだ。

そちらの被害額が∞でないとはどうして言えようか?

そもそも原発被害が∞というわけのわからない評価は「人の命は何よりも重い」という無邪気な前提から来ているのではなかろうか。

そうだとすると、火力だって人が死ぬ可能性はあるのだから、そちらも当然に∞となるはずである

そうなれば期待値比較したときに∞と∞の比較になって答えは不定となるはずだ。

原発長所はその発電量である

こういう評価リスクとリターンを総合してするものだ。

本気で比較するならば、正しい手順はおそらく以下のようになるはずだ。

  1. どのような値をリターンとし、どのような値をリスクとするか、その算定方法を決定する。
  2. リターンの値に対してリスクの値をどのように重み付けて減算するか、その統合方法を決定する。
  3. それぞれの発電方法に対し、リターンの値を何らかの前提のもとに「有限の値」として評価する。
  4. それぞれの発電方法に対し、事故が起きた時の損害額を「有限の値」として評価する。人の命にもちゃんと何らかの前提のもとに値段を付ける。
  5. それぞれの発電方法に対し、事故の発生率を「有限の値」として評価する。
  6. あらかじめ策定した方法に基づきリターンとリスク統合して何らかの評価値を出し、それを比較して、どちらが優秀であるか決定する。

全体的に件の教授は、∞だの期待値だのという数学上の概念を都合よく(そして不正確に)利用して煙に巻こうとしているようにしか見えない。

原発反対という用意した結論があって、どうしてもそこへ誘導したいのだろうが、仮にも旧帝大学生相手にそれをやるのなら

ちゃんとした手順を追ったうえに「原発<火力」となる結論を導いてほしかった。

  • 天然の核融合を安全に利用する方法として光合成とか液晶パネルによる太陽光発電がすでにあって これはもう被害ゼロ!ゼロにくらべたらなんでも無限大です! みたいな話かなとおもっ...

  • 仮に有限の物凄く大きな値を、簡単のため∞と置くことが許されたとしよう。 超準解析かな?(すっとぼけ)

  • こういう話には保険屋さんが出てきてほしいよな。アクチュアリー的な。 リスクマネジメントは考え出すと面白そうな分野ではある。 論理の出発点(公理的な前提)をどう置いているの...

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