しがないサラリーマンなので、1人で30分以上の道のりをタクシー移動とかまずない。
「急いで届けてくれ。先に金は渡すから領収書もらってこい」と送り出された。
うちは営業が多い会社なので、社の前には常にタクシーが何台か待機している。
「〇〇ビル、分かりますか?」「当然分かるよ。私はお宅の会社の人を運んで15年だからね」
人懐っこくおっちゃんが笑う。
そんなにタクシーに乗ったことがある訳ではないけど、タクシーの運転手も色んな人がいる。
自分もそれなりにおしゃべりした。
おっちゃんが、うちの会社の人を15年以上運んでいるのは本当みたいで、
「かつて、おたくの会社の営業はタクシーチケットを束で持っていたもんだよ」
「あー!タクシーチケット、自分は1回しか使えた事ないです!」
「あと、前は〇〇駅近くのビルにも人を運んでいたね」
「自分が入社したての頃は研修で行きました。今もあるらしいんですが、役割が変わったんですよね。」
おっちゃんは、話し上手聞き上手を自称していたが、確かにそうかもしれない。
自分の知らない、外から見た会社の姿がちょっと見えて、話はそれなりに盛り上がった。
次第に話は、会社のことを離れ、どこそこの土地の飯が美味いだの、葬式の話だのになっていった。
「いやさぁ、若い頃は年金とか分からなかったけど、貰い始めてみるとありがたいもんだね」
「あぁ、なるほど」
自分は、あまり年金に期待できない世代なので、曖昧な返事になってしまった。
おっちゃんは寂しそうに続けた
「でもさ、年金だとか色んな補助とかどんどん削られていくんだよね。国は年寄りに死ねって言っているみたいだよ」
凄く凄く悲しそうな声音で言われたそれを聞いて、自分ははっとした。
「それ、働き盛りの世代でも、似たようなことを言っているんですよね。
そっか。年寄りとか若いとか関係なくて、日本って国全体が貧乏になっていってるんですね。」
でも大学に回すお金は減らすのに、高齢者の人材活用にお金回すとか、
自分はこれまで、まだ日本には使えるお金が残っていて、その使い道をお年寄りを優先するような政策になっているってなんとなく思っていた。
でも多分。何よりも一番の原因は全体が貧乏になっていっているんだなぁって、妙にストンときた。
まだ、残った富を優先的に回してもらっていると思っていた世代が「俺たちに死ねって言っているようだ」と思ってしまうくらいに
残ったパイは、自分が思っていたよりも小さくなっていたんだなぁ。