私は元彼とそこそこ仲がいい。
詳細は省くけど、元彼は結構病みやすくて、その度に深夜までかかって励ます生活に疲れたので私から別れを切り出した。
こういう所が本当に苦手だ、疲れた、とそう伝えた。すると元彼は気をつけてくれるようになって、以前より病む回数も減った。もともと趣味も合う人だったから、普通に友達として楽しくお話していた。
時折好意を思い出すこともあったけど、またあんな生活に戻るのは嫌だったし、付き合えばまたずるずるああいう話に付き合わされるんじゃないかという不安もあった。ただ向こうは私のことがまだ好きなままで、それにつられて感情をこぼしてしまうこともあった。付き合うことはなかったが。
そんなある日、元彼が同期の所謂「推し」の話を始めた。私と付き合っていた時にもよく可愛い可愛いと言っていた子で、私も概ね同意見だった。本当に可愛いのだ。そしてもう一つ言うと、誰の目から見ても明らかに私の元彼のことが好きだった。最近聞いた話だけれど、付き合う前から家に呼んだり、二人で少し遠くまで遊びに行っていたりしていたようなのだ。
元彼は推しのことが恋愛感情で好きになってしまったかもしれない、と言い出した。
そして私のこともまだ好きなままだと。
まあ何日か経って、結局普通に推しが恋愛感情で好きになったと言われた。
私のことも好きだよ、と言われた。正直イラッとした。なんていうか、キープにされてる感が凄かったのだ。散々推しが可愛い可愛いと話をしてきて、最後に思い出したように付け足していく。確かに私は元彼に好意を持っているけれど、そんなのは推しに失礼だ。
それからまた、元彼はぐだぐだ病み始めた。可愛い、告白したいけど怖い、推しが俺のこと好きだって言う人いるけどあんなに可愛い子が好きになってくれるわけがない。どんな会話をしてても突然その話に飛ぶのである。今はアニメの話だろうが、と思っても奴はペラペラと喋り続けるのだ。うぜえ、と思ったがわりと我慢して励ました。推しには悪いけど、二人が付き合ってくれればこういう話は全部推しに流れて、こんな日々からも解放されるはずだ。そう思って励まし続けた。
そしてついに先日、付き合うことになったと報告を受けた。私の胸に広がったのはようやくか、という安堵の気持ちだった。
ようやく終わる。感極まって私は付き合ってくれていたことへの感謝を述べた。祝福した。売れないJ-POPみたいな、恥ずかしい言葉で。今思うと完全に舞い上がっていた。これからも仲良くして欲しい、という元彼の言葉に、私は二つ返事で了承した。
すると元彼は言いやがったのだ。これからも、私には悩んだ時に話を聞いてもらうと。推しには推しが幸せになるような話をする、と。
ぐらりとした。本当に目の前がちかちかした。何故。何故だ、元彼。そういうところだぞお前ほんと。それが原因で私に振られたくせに、私が嫌だって言ったのを知っているくせに、なぜそんなことを平気で言えるんだ。なぜ新しい彼女には優しくできるくせに、私にはできないんだ。してくれないんだ。
昨日の夜、椅子の上に体育座りになって、机に半分寄っ掛かりながら、ぼんやり考えた。元彼にとって私ってなんなのか。これから私は、どうしていったらいいのか。そう思ううちに彼から連絡が来た。わかりやすく浮かれていた。彼女が可愛くて可愛くてたまらないのだろう。本人に言えよ、って感じだった。そう言うと、彼女はもう寝てるから、と言われた。よく言うよ。私と付き合っていた頃は深夜2時半に突然何十回も電話をかけて来たくせに。
まあそんでもって適当に話を聞いているうちに、なんでか彼は病み始めた。本当に好きでいてくれるのだろうか、みたいな。うわめんどくさいパターン入ったな、と思った。彼はぐだぐだと喋ったあと、もういい、と言って眠ってしまった。
もういい。私が付き合っていた頃、何十回も聞いて、その度に嫌で嫌でたまらなかった言葉だ。それをもう聞くことはないと思っていたのに、また聞かされるのか。そう思うと、私はなんだかどうしようもなくて、しんどくて、吐きかけたのを抑えて寝た。
面倒くさい…。お疲れさま。