こうして弟たちはツクヒに言ったように、『アレコレ病』を吹聴して回ったのである。
その成果は目覚しく、シロクロが“アレコレ病患者”として世間に認知されるのにそう時間はかからなかった。
シロクロは常人目線で見れば公序良俗違反が服を着ているようにしか見えなかったのだが、そうじゃないのなら話は別ということだ。
「私、最初はどうかと思ったんだけど、予想以上に上手くいって良かったわね」
「“アレコレ病”なんて、俺たちが思いつきで名付けただけなのに、みんなシロクロへの当たりが緩やかになっていったな」
「僕たちは病名をつけただけなのに、こんなに認識が変わるんだね」
みんな病人には多少の同情はする。
みんな悪人にはなりたくないのだ。
杓子定規にしか物事の是非を判断しない人間には、こういった抑圧がよく効くらしい。
「とはいえ、みんなを架空の病気で偽って、シロクロを病人扱いしているのは少し気が引けるなあ」
「大丈夫さ。シロクロの言動はある意味で病的だと言っても過言ではない。僕たちはそれに名前をつけただけさ」
「そう。病名をつけられれば、それは立派な病気だ。病人は敬わないとな」
冷静に考えればとんでもないことをやっているのだが、弟たちはシロクロを守れたことに喜んで、そこには目もくれなかった。
話はこれで終わらない。
それから数週間後、この“アレコレ病”に対する認知度は俺たちの町すら越えて、世界に轟くことになった。
今や“アレコレ病”と、その病人(とされる者)たちは完全に認知されたのである。
「これなら俺たちも何らかの病気を名乗ってみたくなるな」
調子に乗った弟は冗談めかしてそう言うが、こいつなら本当にやりそうなので俺は笑えなかった。
「やめなさい」
見かねた母が弟たちの話に割って入った。
「そんなことしていたら、いずれこの世の人間がすべてが病人として扱われるわ」
弟が平等という言葉をどういう趣で使っているかは分からないが、大した理屈ではないことは明らかであった。
それでも母は毅然とした態度で説いた。
「考えてもみなさい。この世の人間が全て病人になってしまうということは、“病人に対して寛容でいようとする常人”もいなくなるってことよ」
「あ……」
だが弟たちはそれで納得したらしく、俺はツッコミの行き場を失った。
「そうだね、俺は常人でいるよう頑張るよ」
「僕も」
「ええ、頑張りなさい」
「イエス、アイ、マム!」
シロクロは事態をよく分かっていないのだが、弟たちに同調してハキハキと返事をした。
皆が何をもってして“常人”だとか“病人”を指しているのかよく分からなくて話についていけなかったが、それはもしかしたら俺も何かの病気だからなのかもしれないな。
町の中でも、特にシロクロを目の敵にしていたのはツクヒという子供だった。 「む、また、シロクロか……目障りだなあ。見た目が目障りだし、一挙一動目障りだし、特に声が目障りだ...
俺の住む町にはシロクロと呼ばれる人物がいる。 その名の通り白黒のツートンカラーを好み、あいつの着ている服はいつだってその二色のみで構成されている。 その上、言動は不可解...