町の中でも、特にシロクロを目の敵にしていたのはツクヒという子供だった。
「む、また、シロクロか……目障りだなあ。見た目が目障りだし、一挙一動目障りだし、特に声が目障りだ」
ツクヒは自身がコンプレックスの塊のような存在だと認識しており、その感情を同年代にばら撒く人生を送っていた。
あらゆることをコンプレックスに絡める卑屈さは傍からみていても気分の良いものではなく、彼の周りから人は自然と距離をとる。
ツクヒの困ったところは、そういう原因に含まれている「自分」という人格を、ある意味では甘く見積ってしまうことだ。
つまり、彼はそれがコンプレックスのせいだと意固地になり、それで人間を判断する狭量な奴らだと周りを判断してしまうわけである。
自分が嫌いだが、それ以外を更に嫌いになることで心の安寧を謀っているのだ。
そのため弟たちとも折り合いが悪い。
そんなツクヒにとって、弟たちと仲の良いシロクロは八つ当たりしやすい格好の的だった。
スリングショットは子供の玩具というイメージが強いが、極めれば立派な武器である。
そしてツクヒの持っているのは正にそれだった。
「やめろ、ゴミ!」
ツクヒが構えたとき、弟たちがすんでのところで止めた。
「そう呼ぶのはやめろ!」
当然、読みがそうなっているだけで別に悪い意味はないのだが、ツクヒにとっては呼ばれたくないものであった。
「……ツクヒ。いま、シロクロに当てようとしただろ」
ツクヒは最初ばつが悪そうな顔をするが、すぐに取り繕って弟たちに言葉を返す。
「そうだよ。だけど別にいいじゃん。こんなことやっても、マスダたち以外は誰も強くは止めないじゃないか。シロクロは、これ位のことはされても別にいい存在って周りに思われているんだよ」
ツクヒの開き直りに、弟たちは怒りの炎を静かに燃え上がらせる。
だが、それではその場しのぎにしかならないことは分かっていた。
そこで弟たちは、とある妙案に望みを託した。
「ツクヒ……シロクロはな、“アレコレ病”なんだ」
「アレコレ病? なんだそれは」
聞き覚えのない病名にツクヒは首を傾げる。
「見ての通り。シロクロみたいに、“ああ”なるんだ」
意外にも、ツクヒはそれであっさりと納得して帰っていった。
「シロクロの奇行は目障りだが、病気なら仕方ない。常人である自分たちは我慢しよう」
弟たちにとっては藁にもすがる思いで実行した作戦だったが、ツクヒの予想以上の反応に手ごたえを感じ始めていた。
俺の住む町にはシロクロと呼ばれる人物がいる。 その名の通り白黒のツートンカラーを好み、あいつの着ている服はいつだってその二色のみで構成されている。 その上、言動は不可解...
≪ 前 こうして弟たちはツクヒに言ったように、『アレコレ病』を吹聴して回ったのである。 その成果は目覚しく、シロクロが“アレコレ病患者”として世間に認知されるのにそう時間...