「俺ってどうやって生まれたの?」
ああ、とうとう来てしまったかと思っていたにも関わらず、両親は動揺した。
一度、疑問を持てば自分が納得する答えを探し求め、その労力を厭わない。
「そうね……よく知らないの。ほら、私ってサイボーグでしょ?」
「まあ……」
我が家ならではの誤魔化し方であるが、後々ややこしいことになりそうなのは目に見えている。
「母さんが本格的にサイボーグ化したのって、つい最近だろ。そもそもサイボーグであることと、知っているかどうかとは関係ないし」
「あ、それもそうか」
俺は横に入って訂正をせざるを得なかった。
具体的にどうこう言えというつもりはないが、誤魔化すならもう少し支障がない方向性でいくべきだろう。
「……」
「……」
当然ながら弟は納得しない。
「ちぇ……なんだよ、それ。じゃあ兄貴は知ってる?」
そして両親がその調子であれば、次に訊ねられる身内は俺しかいないことになる。
父が目配せをする。
どうやら、さきほどの俺の訂正と同時に、回答権を俺に譲った形にしたつもりらしい。
「なあ、兄貴……」
「待て、説明するには言葉選びと構成が大事なんだ。それを考えている……」
正直なところ、俺は皆がそこまでして誤魔化す理由すら把握していない。
しかし、漫然と「今じゃない」という思いが横たわっているが故に苦心する。
それを汲み取るべきかは知らないが、かといって返答に窮することは変わらない。
コウノトリだのキャベツ畑だのは陳腐すぎるが、無修正のポルノを例に説明するのが愚策であることもさすがに分かっている。
かといって、ここで両親と同じく沈黙を貫いたり下手なことを言ったりすれば、その被害は我が家だけではすまないことになるだろう。
いわば、意図せずして俺は弟の知的好奇心を止める最後の砦となってしまったのだ。
なんだか、こういうこと前にもあったな……。
ああ、関係のないことまで思い出して、考えがまとまらなくなってきた。
「いや、待てよ」
俺はそうして思い出した記憶の中から、一つの光明を見出したのだ。
「俺も所詮はティーンエイジャー。言える事は少ない。だが、それでも言える事はある」
「お、なになに?」
「お前が生まれる前の話だ。第三者から見えてくる、誕生の真実ってのもあるんだぜ」
俺の意味深な語り口に、傍観を決め込んでいた両親もソワソワし始める。
「真実……?」
「まあ、聞け」
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