俺は家に帰ると、真っ先に父と母を呼んで先日のことを切り出した。
「父さん、母さん。昨日のことだけど……」
「お、そ、そそうか」
かしこまった態度に、二人の緊張が読み取れる。
俺からはっきりとした答えを聞けることはあまり期待していなかったのかもしれない。
「でもね、その前に確認しておきたいことがあるんだ。じゃなければ答えない」
「……なんだ?」
「意志……そ、そりゃあ私たちは決まっているから、あなたに聞いているのよ」
「“私たち”?」
「そうさ。母さんはもちろん、俺も……」
「生まれてくる子は?」
「!?」
両親の動揺は明らかであった。
そして、その動揺が答えでもある。
「……どうやら、まだみたいだね。大切なことだよ」
「い、いや、それはだな……」
「生まれてくる子の意志を確認しないまま、親の勝手で生んだりしたら大変だ」
両親はすっかり黙ってしまった。
だが、優先すべき事柄が出来てしまった以上、少なくとも俺の意思決定は見送りである。
「で、お前が生まれたのはその1年後のことだ」
「そういうことになるな」
「身に覚えがないんだけれども」
「そういえば、俺も結局のところ聞かされていないな」
そう言って俺たちは両親に視線を向ける。
「ふ、二人とも忘れているだけさ」
「そうよ。ちゃんと意思確認をしたわ。二人とも、ここに生まれるべくして生まれたの」
そう言う父と母は視線を合わせないままで、訝しげだ。
そんな両親に弟はジトリとした目をする。
「まあ、父さんと母さんがああ言っているんだ。信じようじゃないか」
未だ懐疑的な態度の弟を、俺はなだめる。
「もう、それはいいけどよお……俺たちはどういった経緯で生まれたいと思ったんだろう」
「まあ、俺も思い出せないけどさ。これまでのことや、これからのことで、俺たちがなぜ生まれたいと思ったか推測していこうじゃないか」
あの時だって、煙に巻くためにそう言っただけだ。
まあ、聞くべき相手が肯定も否定もできない、或いはする気がないなら、そもそも聞くことがナンセンスなのである。
あれは俺が、今のお前と同じくらいの年齢のときだ。 かしこまった態度で、父と母がこんなことを言ってきた。 「息子よ。弟か、妹は欲しいか?」 俺にはその質問が意味するところ...
「俺ってどうやって生まれたの?」 ある日、弟の投げかけた言葉である。 ああ、とうとう来てしまったかと思っていたにも関わらず、両親は動揺した。 命題であることもそうだが、...