その人は組織のマネージメントを担う階層にいて、自分は1メンバーというポジションで、共に事にあたってきた。
最初会った時から、メンバーに対する誠意が全身から感じられる人だった。
相手に通じる言い方を懸命に探って、理解を得られるまで言葉を重ねるタイプで、それでいていつも笑顔で、颯爽とした物腰。
何度か同じ現場を踏み、そのたびに「見た目もイケているけど、それ以上に言動が、更にそれ以上に仕事ぶりがイケている、これが真のイケメンか」と感動したものだ。
なんでも、大学在学中に今の道に目覚め、そのため卒業後別の学校に行き、尚且つマネージメント志向だったので、趣味のサークルを切り盛りしてリーダーシップの涵養に努めたという、半端ない苦労人らしい。
数年前の現場で最後に話し込んだ時、「僕はこの後しばらくヨーロッパで仕事なんです」とにこやかに言っていた。
自分はそれを受けて、今習得に向けて取り組んでいる物事、それで更に皆に貢献したいみたいなことを話したのを覚えている。
文字通り「是非またこの人に指導を受けたい」という熱い想いを抱きつつ、その現場を終えた。
その後、その人は実際にヨーロッパで仕事をし、帰国して程なく結婚したと聞いた。
そしてまた、その人と一緒の現場を踏めると聞いて、当然ながら大喜びした。
ところが…数年ぶりに会ったその人は、全く変わってしまっていた。
しかし、要求・指示がとんでもなく察してちゃんな内容に変貌していたのだ。
内容的には
「言葉にしてしまうと違ってくることってあるでしょう?『ここはこうしましょう』という約束事じゃ成り立たないことがあるでしょう?
だからもっと汲み取ってください。我々がやっていることってそういうものでしょう?」
「なんでこういう雰囲気で来ていた流れを無視するようなコミットをするんですか?もっと感じ取って下さい」
と一事が万事こんな感じだった。
ちなみに、その現場のメンバーは自分を含む修士が中核で、次いで博士持ちがいて、あとはそれ以外という高学歴揃い。
つまり聡明だけど個々のこだわりが強い、言い換えれば頭いいけどアスペ傾向な人が多かった。
だからこそマネージャとしてしびれを切らしたというのは絶対あると思う。
しかしそのような仕切りは、上述の特徴を持つメンバーにとっては少なからぬ負担になるし、ともすれば反感を買うということが分かっていないようだった。
ここまで「通じない」言い方する人だったっけ?と驚かされた。
結局、その現場も大成功だったのは事実である。それは勿論、まずはその人の手柄である。
しかし、今まで感じたことのない、猛烈な疲れを味わった。
どうしてこんなことになってしまったのか。
数年の間で、あの人に一体何があったのか。
残念な想いばかりが募る一件だった。