という話は聞いていた。
いかにそのマジキチ女がマジキチな行動を取るか、という話も聞かされてはいた。引いた。
昨日居残って仕事をしていたところ、非常識な時間に電話がかかってきて、出たらそいつだった。
数十分後またかけてきた。
うんざりしながら十秒ほど喋ったあたりで、このマジキチはただの詐病だ、という事がはっきりと分かった。
一割程度はガチだろうが残り九割は遊び半分でやっている。
確かに、職場の連中から聞かされた話の中においても、すでに違和感はあった。
実際に話してみてそれは確信に変わった。
言葉の裏側に、「どう振舞えばマジキチ扱いしてもらえて奇行を大目に見てもらえるか」という計算が透けて見えている。
本物のマジキチは自分の用件を述べて相手が話を聞いている事を確認してから奇行に走らない。
ヘラヘラ謝るマジキチ女。慣れた調子で続けた。「病気なんで」。
本物のマジキチは自分が病気である事を切り札や免罪符のように提示しない。
病気だからといって何でも許されると思わない事、職場は病院ではない事を、一気にまくしたてた。
非常識な時間に電話をかけてくる事。何を考えているのかという事。
ヘラヘラ笑ってふざけた態度で謝り続けるマジキチ女。まだ自分は許されるとでも思っているらしい。
なめてんのかふざけてんのか、とキッチリその態度を指摘し謝らせた。
家族に代われ、と言った。当然、家族はなく一人暮らしだと答えるマジキチ。仮に居たとしても代わりはしないのは目に見えている。
というニュアンスを込めて、迷惑だから二度と電話してくんなと怒鳴りつけた。
この手の、病気なんかを盾にして人に迷惑をかけ小ばかにして、しかも相手にはそれが分からないだろうと思っている愚物には、「お前の腹の底は透けて見えている」という事を教えてやるのが一番効く。
電話をかけてきた相手が電話を自分から切りたくなるまで、徹底的に攻撃を続けなければならない。そうしないとまたかかってくるからだ。
しかしその発狂も、ただ日本語として聞き取れないものを羅列するだけであって、感情の発露は見受けられなかった。
冷静に奇行に走って、相手を黙らせようとする計算が行動の裏に見受けられた。
そして案の定こちらの「日本語喋れこのキチガイ」という反論を待たずにガチャ切り。
あれだけ怒鳴りつけたのに、終始ヘラヘラ笑いやがって怯える様子の一つも見せなかったのはもう慣れている証拠だろう。
他人にちょっかいを出しておちょくり、病気を盾にヘラヘラ笑って、激怒する相手を呆れるか諦めさせるかさせ続けてきたのだろう。
そして、自分の手口が通用しない人間とわかれば、偽者のマジキチは関わろうとはしない。
もう二度と電話して来ないだろう。