今日は体育祭だった。うちの学校は体育祭の最後にフォークダンスをする。偏差値がクソほど低い学校なもので、男女問わず憧れの目線でそれを眺めるのが風習らしい。
自分はというと、準備から3曲目まで、ずっとトイレに篭っていた。
というのも、彼氏がいないからつまらないとか、陽キャに対する疎外感とかじゃない。そんなもの、教室で1人で飯食うのを半年してた自分にとっては造作もない。ぼっちを極め尽くしていた人間だからだ。
別に男が嫌いなわけじゃない。男尊女卑ではないが、生物的には男の方が優れていると思っている。女子の輪に混ざりたくないわけでもない。気まずいが、別に混ざろうと思えば混ざれる。それほどまでに空気だから。
つまりなんだって話だが、めちゃくちゃ端的に説明するなら「トランスジェンダーだから女として踊りたくない」。
けど自分の自認性別は女だし、別に女側で踊る事に対しての忌避感はない。踊れるなら男がいいとは思っている。
あんまり深掘りしたくないが、色々あって、男側じゃないと踊れない。複雑な事情ってものは、ネットの海に流しても誰も理解してくれないものだ。
だから、劣等感で腹の中がぐちゃぐちゃになって、唯一と言っていい友人を放ってトイレに30分ほど篭った。
記憶が曖昧だが、吐こうとして何回かえずいた事(朝飯がなかったので未遂に終わったが)と、塞ぎ込んでいたら変な視線を感じたのは覚えている。
変な視線というのは、多分人間のものじゃない。幻覚だと信じたいが、目の裏に霞んだ青い瞳の目が一つ、咎めるようにこちらを見ていた。トイレの壁に黒い影が掛かって、その目でじっとこちらを見ていた。食い殺そうとしていた。
それでいいと思った。むしろそれがいいと思った。そのまま殺されて、死んでしまっていいと思った。眼前まで迫っていたあの影の牙を、忘れられずにいる。とてつもない魅力だった。
だが、目を開けると変わりもしないトイレのドアが見える。そこに影はなく、ただ静かな空間と外の音楽が鳴り響く。
またそれが妙に気持ち悪くて苦しくて吐きたくなって、塞ぎ込んでの繰り返しだ。
形式的なアンコールを聞いて、4曲目の中盤あたりで席に戻った。何も見たくなかった。気持ち悪くてたまらなかった。
やっぱり死にたいと思った。
死にたいわけじゃない。やりたい事はいくらでもあるし、対人関係に怯えている事もない。
ただ、漠然と、目を離すと死にたくなる。
才能がない。努力もない。容姿が醜い。金がない。環境が悪い。価値がない。
自分に自分でレッテルを貼り付けて死にたくなるなんてバカだろうと思う。自分じゃ止められないからどうしようもない。結局死にたい。
けどODする勇気はない。リスカはしたことはないが、自傷だと医者に言われたクセはいまだに治らない。治す気がないんだろう。
何もしたくない。死にたい。矛盾。死は怖いのに、死にたい。カッコつけてるわけじゃない。本当に死にたいのに死ねない、死にたくないから困ってるんだ。
かれこれ数年悩まされてるこの希死念慮に、自分はまだ打ち勝てずにいる。自殺したら、自分の生きてた証を全部捨てたい。自殺した自分なんて要らない。
そう思っているうちは、死なないだろう。そう信じて、寝る。