だが、イアリーチケットに対する不信感のせいで、存分には楽しめなかった気がする。
それでも気を取り直して楽しもうと、俺たちは頑張った。
そもそも、楽しませるために作られた遊園地で、楽しむ側が必要以上に頑張る時点で無理があるとは思ったけど、そこは譲歩しよう。
しかし、そんな俺たちの譲歩も虚しく、イアリーランドはことあるごとに“残念感”を出してくる。
「ん……この『ウェンズデイ君のカルボナーラ』……どこにウェンズデイくん要素が?」
「そのミートソースの模様じゃないか? ウェンズデイ君って、ほっぺたにグルグルあるだろ」
「えぇ……それだけ? 他にもっと……なんか、こう……あるんじゃない?」
そう言いながらドッペルは、フォークでパスタを掻き分け、その“なんか”を探している。
しばらくすると、ドッペルは無言でカルボナーラを食べ始めた。
答えは聞くまでもなさそうだ。
たまたまハズレメニューを引いただけかと思ったが、俺たちの頼んだものは悉くそんな感じだった。
キャラクターをイメージをしたとされるメニューは、どれもこじつけ気味な関連性しかない。
「ラテアートで、イアリー君のアホ毛が描かれていたんだけど、運んでるときに崩れちゃったっぽい」
「この『ニッキ・ゲーム』ってジュース。ニッキが入っているのは分かるけど、ゲーム要素は取ってつけたみたいな感じだなあ。クッキーに『ゲーム』って書いてるだけだ」
かたどったクッキーをジュースに浮かべただけだとか、プリントしたチョコをケーキに乗せただけだとか、すごく投げやりなクオリティのものが多かった。
にも関わらず、妙に値段が高いのも気になる。
こういうところのモノが高いのは分かってはいたんだけど、さっきのチケット関連の出来事も踏まえると、どうもボッタクリの印象が拭えない。
「私、同じジュース頼んだけど、こっちにはその取ってつけたゲーム要素すら入ってないわよ」
「いや、さすがに全く入ってないってことはないだろ。カップの底に沈んでるんじゃないか?」
「沈んでないわよ。ほら」
しかも、作りが安定していない。
「取り替えてもらいなよ」
「私、ムカついてるけど、やめとく。文句を言って得られるものが、クッキーひとつだなんて割に合わないもの」
普段なら、こういうことは抗議するタオナケが、ずいぶんと大人しい。
「通販とかでさ、『○○日までなら返品可能』ってのあるだろ? あれで実際に返品する人って、かなり少ないらしいぜ」
「それだけ、その商品に満足しているってことじゃないの?」
「その理由も半分くらいはあるだろうが、もう半分は『返品するためのコストが割に合わない』からだと思うんだよな」
「返品したのに割に合わないって、どういうことなの?」
「例えば、返品時の送料とかは消費者が負担しなきゃダメ、とかいう契約を設けてんだよ」
「うわ、セコい」
「それがなくても、わざわざ返品のためにダンボールに入れて、宛て先を調べて書いて、宅配業者に頼んで……面倒くさいだろ?」
満足に足らないし、後悔もしている。
けど、それを取り戻すために、労力をかける価値を感じないんだ。
『覆水盆に返らず』という諺があるが、仮に返せたとしても「別にそこまでしたくはない」という気持ちが勝るのだろう。
俺たちはレストランを出た後、真っ先に自販機で飲み物を買おうと思った。
お粗末な紛い物で満たされた口の中を、親しんだ既製品の味でリセットしたかったからだ。
こういうところの自販機って割高に設定しているもんなのに。
これだと、レストランで飲み物を頼んだ俺たちがバカにされている気分だ。
どうもイアリーランドは、価格設定が無頓着なきらいがあるらしい。
“したくなかった”のだと思う。
「そうだな、じゃあ帰ろう」と言って帰られる状況ではなかったからだ。
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