2016-11-30

この無数に重なり合う世界の片隅に。

終盤唐突差しまれる、被爆したとおぼしき、右手がずたずたになって、左手少女と繋いで焼け野原を歩く女性

これは、すずだ、と。

これは、本当の、すずだ。

すずさんは、広島で、子供かばって、被爆したのだ。

普通に、当然のように、そう思った。

始めに言っておくんだけど、多分こういう解釈はあちこちで出てて、多分「原作読めば分かるけど、それはこうだよ」って否定されてると思う。実際、原作を読めばそれだけで氷解する、阿呆みたいな、とんちんかんな、暴走妄想なのだと思う。

別にそれでいい。

ただの、原作未読で、映画も一回しか見てない僕のモウソウだ。「トトロで、サツキとメイは実は死んでました」のたぐいの話だ。

ただ、僕には、そう見えてしまった、ということをメモっておきたかった。

終盤に唐突に現れる、焼け野原を歩く女性は、すずだ、と思った。

本当のすず。

現実のすず。

今、そうであるすず。

じゃあ今までのは全部夢だったのかな。すずの妄想だったのかな。彼女はとても夢見がちで、どこかぼんやりしているのだ。

でも、思い返すと、すずが妊娠したんじゃないか?ってなった時、医者から出てくる様子が映されたのみで、どうなったか結論が何も出てこない。

勘違いだったのか?

食べ過ぎとかか?

生理不順か?

それとも……流産した?

それは、劇中では語られてない。まるで、触れてはいけないことのように、一切触れられない。

世界はこの時、分岐していたのではないか

流産した世界と。

無事に月を重ね、広島に帰って出産し、育て、そして……そして原爆に遭い、子供かばい、右手を失い、ほどなく死に、ウジに、ハエたかられる世界と。

たとえば、お義父さんがすずと晴美を米軍機の銃撃からかばったあとに、ばったり倒れたまま起き上がらないシーンがある。直後、徹夜してたために爆睡しちゃったのだ、と笑い話になる。

たとえば、すずが海と軍艦を絵に描いてると、憲兵に目をつけられ、手帳は取り上げられ、家まで押しかけられて家族皆が詰問される。直後、このすずさんが間諜って、そんなあほな!と笑い話になる。

シリアスになると、直後にお笑いオチになる。

本当の未来は違ったのではないか。あの時、お義父さんは米軍機の銃撃で死んでいたのではないか憲兵に目をつけられたすずは、そのまま連行拷問の末、獄死したのではないか

そうなった未来をすずは、棄却し、そうでない未来選択し直していたのではないか

どうやって?

そりゃあ、右手で。

すずの想像力の源、生きる力、癒やしの力、生み出す力で。

から、晴美の事故を、やり直せなかった。一緒に右手を失ったから。もう、左手でいがんだ世界しか描けなくなったから。

から原爆も。

でも、じゃあ、あれは、一体なんなのか。原爆焼け野原で、「本当のすず」が連れていた少女は。その子と「すず」が出会い、引き取るのは。

どうともしようがない。合理的な上手い説明など思いつかない。ただ、いくつか思うのは、もう世界線というか、時空は入り乱れてるように思う。原爆エネルギーなのか、なんなのか。

すずは幻想右手を取り戻して、いがんだ左手風景は消えて、そして鬼いちゃんは南方で毛むくじゃらの化物になり、ワニの嫁さんをもらって、過去の人さらいとなって、すずと周作を出会わせる。

貧しい生家から裕福な家に奉公に出され、奉公から出奔し、草津の家で座敷童になり、遊郭に拾われ、遊女となった、(そして「今」は空襲で死んでしまった)ひとりぼっちのりんの隣に、すずの幻想右手は、自分の姿を描き入れる。

ならば、もうひとつ世界の流れの、原爆惨禍に遭ったすずは、そうならなかった世界の流れのすずに、自分の娘を託すぐらいの事は出来たのではないだろうか、と僕は思うんだ。

その程度の奇跡は、起こせてもいいんじゃないかと思うんだ。

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