今から20年ほど昔のこと。新人ADは、仕事で失敗し、ディレクターから殴られ、眼鏡が壊れた。
後日、また怒られることを覚悟して、直接ディレクターに眼鏡を弁償してほしいと伝えたが、「お前が悪い」ということでその話は終わった。周りの先輩も、そうした自分の行動は良くないと言っていたし、その一連の出来事の結果、居場所がないと感じ、辞職することにしたのだった。上司に辞意を伝え「お前は向いてないよ」と言われたことを覚えている。
当時は、問題は自分で解決しなければいけないと思っていたし、誰にも相談はしなかった。業界では暴力やパワハラは育成と選別のためには必要悪で、それを告発することを認める雰囲気はなかった。
今では放送業界に限らず、企業のコンプライアンスに対する社会の目が厳しくなり、パワハラや暴力は許さない態度は当然のことになっている。
本当は当時からそうであるべきだったし、もちろん法律も整備されてただろうが、世間や風潮や周りの空気で、告発したり誰かに相談する選択肢が浮かばなかった。泣き寝入りして退場して終わりである。
原因は、正しい解決方法を知らなかったからだ。今だったら、警察か法テラスか労基に相談して第三者の仲介で解決する方法を選ぶだろう。もしかしたら傷害罪や、器物損壊という話になってきちんと謝らせることができたかもしれない。
結局、業界の雰囲気と自分の無知によって、踏みにじられた感覚は、今でも時々思い出してはジタバタする嫌な記憶になってしまった。相手はきっと覚えていないだろうし、罪悪感もないだろう。今も元気に業界で働いているそうである。
昔に比べれば、今はずいぶんマシになった。ハラスメントは悪だという当たり前のことが浸透したし、解決方法も色々と示されている。自分のような経験を、若い人にはして欲しくないと強く思うし、今の職場では部下や同僚といい関係でいられることを第一に働いている。