無害で、不愉快でなく、少しばかりの面白みがあり、精神的・肉体的なメリットを与える人間であると、認められたい。
こういう類の許可をひっくるめて「セックスに同意してもらうこと」を捉えている節がある。
本当のところ性欲なんて言い訳に過ぎなくて私の中で獣のように猛り狂っているのはこういう欲求なのだ。
いや、最初のセックスに同意してもらったくらいでは私の欲求は満たされない。問題はその後だ。
はじめてのセックスが終わり、朝が来てさよならと別れたあと、その後マッチングアプリのメッセージで感謝の言葉と少しの感想を送り、ラインのIDを送る。もしよかったらラインに移動しませんか?相手と別れた後でなければならない。嫌ならそのままブロックしてもらえるから。ああ。許可されたい。ラインを交換できただけでももちろんまだ足りない。次は誘ってもらえるだろうか?誘ったとしたら快く受け入れてくれるだろうか?最初の一回目のセックスは合格点だっただろうか?食事の内容は?お手洗いに行っている間に会計を済ませたことが不愉快だったりしないだろうか?話題は適切なものを提供できたか?彼女の表情は?強張っていなかったか?退屈そうでなかったか?発言量のバランスは良かったか?質問攻めにしてしまっていなかったか?何食わぬ顔で出勤し、仕事をしながらも許可されたい欲求の獣が体の中でのたうち回る。不安だ、不安だ、不安だ。ああ!許可されたい!
また誘ってもらえたら、その時初めて私の欲望は満たされる。それも相手の部屋に誘ってもらえれば、この上ない絶頂を得ることが出来る。
セックスの同意も、もちろん部屋に招くかれることも、本当は私のあらゆる認められたい欲求を肯定するものではないことはわかっている。
そして、3度目、4度目と会うごとに儀式的な食事と会話、セックスが成立してしまう。
すっかり安心した相手からは私を監査してくれる目としての役割は失われる。
あっという間に興味がなくなる。
顔も声色もよく覚えていない、ただ相手の粘液の味だけがいつまでも鼻の下に残っているいるような相手とのトークルームが、スマホの中で地層を成している。