2021-06-12

[] スーパーカブ10話『バカみたい』

恵庭ちゃんコーヒーを買いに行ってた。

私はカブなのに。恵庭ちゃんったら自転車バカみたい。

小熊はそう思ったが、顔には出さなかった。

そんな事を言ったらコーヒー毒薬を混ぜられるかもしれない、そう思った。

もし毒入りコーヒーを飲んだら、半身不随になってカブに乗れなくなるかもしれない。

小熊は想像力旺盛だった。自意識過剰気味な方向にメーターの針が振り切っていた。

自分のためだけにトリカブト推定)を入れるような真似はしない。

そんな想像力も働かなかった。

しか田舎からトリカブトくらいはありそうだとも思った。

トリカブトがそこらへんを通り過ぎたり、ひょっこり暖簾をくぐって挨拶しかねないと思った。

小熊はそれではまずいと思った。

襲ってくるトリカブト恵庭にチェーンを振り回して応戦しようと思った。

雪道のタイヤにチェーンなんてもうどうでも良かった。

チェーンは振り回すものだ。

小熊の中にイノベーション起こった気がした。

素晴らしい万能感だった。

ふと我に返ったとき小熊は思った。

バカみたい。

後日、礼子と小熊は高いテンションで雪道を跳ね回った。

小熊は内心雪道はスキースノボのほうが良いと思ったものの、礼子が楽しそうなので許してあげた。

小熊は常に心の中では上から目線だった。

休みになると麻婆豆腐に似たあんかけもどきを食べさせたが、鈍い玲子は麻婆豆腐だと思ったまま気づかなかった。

礼子は笑った。小熊も笑った。両者の笑顔意味はまるで違っていたが、そこに青春の一コマがあるような気がした。

楽しい

うん、楽しい

この会話の意味もだいぶ違っていた。麻婆ドッキリに気づかない礼子、という嘲笑を含んでいた。

コーヒーショップに立ち寄った礼子と小熊。

しーちゃんコーヒートリカブトを入れてこない。

小熊はほっとすると同時につまらない気持ちになった。

冬の寒空のように心が冷え切ってゆくのが分かった。

チッ。

と心のなかで舌打ちする。

彼女はひとしきり雪が降り注いだ後、こう思った。

バカみたい。

髭面の店長すらもトリカブトを入れてこない。

礼子が泡を吹く姿は見られそうにない。

小熊は衝動的にチェーンを振り回したくなったが、マグマのような衝動ほとしりをすんでのところで抑えこむことに成功した。

ヒゲオヤジしーちゃん自転車押し付けたらしい。

小熊は思った。

廃品回収お金がかかるからだろう。

そこでトリカブトですよ、と小熊は意味不明に言いかけたが口をつぐんだ。

その時しーちゃん側溝にはまって動けなくなっているとの報告が入った。

やはりトリカブト身体に回ったのだろう。

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