2020-07-05

[] #86-10「シオリの為に頁は巡る」

≪ 前

栞に感想が書かれていることも、貼られている星型のシールについても、既に知っていたこと。

それらが予想の十数倍ほど過剰だっただけだ。

「なんだこれ、どうなってるんだ?」

しかし込み上げてくる拒否感が俺の思考を鈍らせ、なかなか理解が追いつかない。

本と栞という単純な組み合わせ。

それを、ここまでエゲツなくできるという現実が、あまりにも衝撃的だった。

「なあ、マスダ? だから言っただろ」

「君が思っているよりも世の中は狭くて大きいんだよ」

タケモトさんとセンセイが「やっぱりな」といった具合に近づいてくる。

俺がどう反応するかなんて織り込み済みだったのだろう。

「ど、どうして“そんなこと”になるんです!?

俺は狼狽し、まるで助けを求めるかのように回答を求めた。

ガリ勉参考書だって、ここまでゴチャゴチャしていない。複数人間が読んでいるにしたって、一つの文庫本に挟まっていい栞の数じゃないですよ」

「要因は様々だが、あえて決定的な理由があるとするならば“コレ”かな」

センセイは落ちた本を拾い上げると、その中からつの栞を俺に見せた。

「えーと……『この文章で伝わらない人がいるのは不思議だ。これは文化について何が正義かなんて決めようがないという話なんだよ。その儀礼にどのような態度を取るにしろ、その時に正しさを根拠にすべきじゃないってこと』……?」

「この際、書いてある内容はどうでもいい。他の栞との違いを見てみるといい」

言われた通り見比べてみると、確かに他の栞と少しだけ趣が違う。

付箋タイプの栞は見返し部分に貼り付けられ、本の天部から大きく顔を覗かせていた。

貼り付けられたシールの数も多く、この本を開けば真っ先に目につく栞だろう。

「色んな人にシールを貼ってもらえた栞は、このようになるんだよ」

「ん……? ちょっと言ってる意味が」

「つまりマスター判断で、人気のある栞は目立つ場所に貼られるってこと」

ますますからなかった。

そんなことされても迷惑なだけだろう。

マスターは一体なにを考えているんだ。

位置勝手に変えられたら、自分が読んでいた途中のページが分からなくなるでしょ」

別にいいんだよ。彼らは“そういう目的”で栞を使っていないから」

「はあ?」

説明されればされるほど、俺の頭にはクエスチョンマークが浮かび上がった。

次 ≫
記事への反応 -

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん