2020-07-03

[] #86-8「シオリの為に頁は巡る」

≪ 前

彼らの行為はとても漠然としている。

それは栞の本質理解しないまま、あのサービスを利用しているのが一因だろう。

から「栞に何かを書く」ことを享受する割に、それ自体目的欲望がハッキリとしない。

善悪や可否すら宙ぶらりんのままだ。

漠然としている彼らにとって、この漠然としたシールはピッタリなのだろう」

サービスの定期利用者はこぞってシールを求めた。

なにせ彼らのやっていることは、基本的孤独作業だ。

かに貶されるわけでもないが、誰かが誉めてくれるわけでもない。

そんな中で、星の煌めきは認知証明する灯火となる。

誰かが自分の栞を見て、自分も誰かの栞を見ているという実感。

それを明確に可視化し、干渉できるこのシールは彼らにとって刺激的だったんだ。

「ただ……“ニーズに基づきすぎていた”んだろうな」

「どういう意味です、それは」

俺が尋ねると、二人が渋そうな顔をしている。

もちろんコーヒが苦かったら、ではないと思う。

本当に言うべき“何か”を避けて、口を歪ませている感じだ。

「……なあ、お前はどう思う、マスダ」

俺の疑問を他所に、逆にあっちが尋ねてきた。

しか質問意図が読み取れない。

「何がですか」

「今までの説明を聞いて、現状を見て、このサービスについて、どう思う?」

「……どうもこうもないですよ」

そう答えるしかなかったが、かといって嘘を言ったつもりもなかった。

だって俺がどう思っていようが、それは重要なことじゃないからだ。

例えば、連れ立った相手が服を選んでいる状況を想像してみるといい。

そして、その相手が「どっちの方が似合う?」なんて聞いてくるとしよう。

この時、俺の答えに意味なんてないだろう。

似合うと思う方を答えようが、天邪鬼で違う方を答えようが変わらない。

どっちでもいいと思ってテキトーに答えても同じだ。

いずれにしろ相手は服選びを悩み続けて、結局はこちらの意見関係ない結論を導き出す。

タケモトさん達の質問も、要はそういうことだ。

次 ≫
記事への反応 -

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん