水出しホットコーヒーを飲み終わり、家路に着いて、飯を食って、出すもん出して、ベッドに突っ伏しても、俺の言い知れぬ違和感は払拭されることがなかった。
むしろ、あのブックカフェに通うたび、それは徐々に顕在化していく。
「アイスで」
数週間ほど経った頃、店では緩やかな変化が起きていた。
店内にいる客は平均2~3人だったのが、ここ最近は10人近くまで及んでいたんだ。
「ここも随分と賑やかになったな……」
マスターいわく、最近の繁盛っぷりは栞サービスのおかげらしい。
特に好評だったのが、栞に本の感想を書くという独自の文化だった。
当初は一部の客だけがやっていた行為だったが、それが他の利用者の目にも留まった。
すると本を読む常連客の間で慣習化し、それを聞きつけて新規客も増えているんだとか。
「感想書くんなら、あんな小さい紙切れより、もっといいものがいくらでもあるだろうに」
「まあ、あれくらいコンパクトなものの方が、彼らにとっては丁度いいのかもしれませんね」
タケモトさんの隣席には、同じく常連のセンセイが座っていた。
理解に苦しんでいるタケモトさんに対し、センセイは違う視点から分析を試みているようだ。
「丁度いいって何だよ。ああいうのを他人の目に入るところで書く奴ってのは、自己顕示欲とか承認欲求の強いタイプだろ。短い文章でそれを満たせんのか?」
「うーん、もしかしたら“そこまでのものじゃない”のかもしれませんね」
「あん? どういうこったよ」
≪ 前 俺はひとまず“クエスチョン栞”という命名センスをスルーして、他に気になっていることを質問した。 「この人、店で用意した栞に感想なんか書いちゃってるけど、それはいい...
≪ 前 「なんで栞が……?」 もちろん本に栞が挟まっていること自体は不思議じゃない。 だけど俺が手に取った本はブックカフェにあるものだ。 栞は読みかけの本に使うという性質...
≪ 前 店に入ると、マスターが迎えてくれる。 「お、マスダくん。いらっしゃい」 マスターは口ひげを蓄えた壮年の男性で、いつも白いワイシャツに黒いベストを着こなしている。 ...
世界を俯瞰して見てみると、大抵の物事は陳腐に感じてしまう。 これを若い頃にやり過ぎてしまうと、いわゆる中二病だとか高二病だとかになりやすい。 かくいう俺も、これに片足を...
≪ 前 俺はアイスコーヒー片手に、その会話をただ聞いていた。 「上手くいえませんが……“何かを発露したい”という欲求なのかもしれません」 「それは自己顕示欲や承認欲求とは...
朝刊新聞の連載小説感がある 毎日のことなのにいつも前回の話を忘れるのも同じ
≪ 前 ………… 一部の常連客の不安をよそに、栞サービスは存在感を強めていった。 「マスダくん、久しぶり。今日はアイス? ホット?」 「ホットで」 久々に来たとき、店内の雰...
≪ 前 彼らの行為はとても漠然としている。 それは栞の本質を理解しないまま、あのサービスを利用しているのが一因だろう。 だから「栞に何かを書く」ことを享受する割に、それ自...
≪ 前 「……そうか。だったら私たちが言えることは少ないかな」 「何事も距離感を大事にしたがる人間に踏み込んだ話をするのは時間の無駄だ」 しかし、俺の対応は意にそぐわない...
≪ 前 栞に感想が書かれていることも、貼られている星型のシールについても、既に知っていたこと。 それらが予想の十数倍ほど過剰だっただけだ。 「なんだこれ、どうなってるんだ...
≪ 前 それは数週間前、栞サービスが軌道に乗り始めていた頃。 マスターはブックカフェをより繁盛させるため、更なるアイデアを投入した。 「多くのシールが貼られた栞は、このよ...
≪ 前 「最初から傾向はあったけれど、ランキング制がその方向性を決定付けたといえる。この星形シールは小宇宙戦争における勲章であり、権威の象徴なのだろう」 俺は栞に何かを書...
≪ 前 センセイに言わせると、これは「いずれ起こりうる問題」だったという。 この一件は非常に突発的なもののように思えたが、水面下ではフツフツと沸きあがっていた問題だった。...
いい加減つまらないからやめてくれないかな 本当に面白くもなんともないんだよ