2020-07-02

[] #86-7「シオリの為に頁は巡る」

≪ 前
…………

一部の常連客の不安をよそに、栞サービス存在感を強めていった。

「マスダくん、久しぶり。今日アイス? ホット?」

ホットで」

久々に来たとき、店内の雰囲気はかなり風変わりしていた。

客たちは本を片手にペンを握り、黙々と栞に何かを書いている。

それが当たり前であり、しないほうが変だというくらいの勢いだ。

「近くに座りたくないな。なんか」

読書をする客は、主に本棚近くの席に座っている。

俺はそこから可能限り遠い席を選んだ。

「あ、タケモトさん」

「よう、マスダ」

「やあ」

どうやら考えることは同じらしく、そこにはタケモトさんとセンセイもいた。

「そうか、参ったな。他にいい席あったっけ……」

別に相席でも構わんよ、私は」

「遠慮すんな。“あそこらへん”に座るよりはマシだろ」

「……そう、ですね」


円卓を囲んだ俺たちは、それぞれ年齢も違えば趣味嗜好も違う。

共通話題として、栞サービスの話を始めることは半ば必然といえた。

「それにしても、あんなに需要があったんですね。あのサービス

「まあマスターも色々と工夫してるみたいだぜ。例えば、これとかな」

タケモトさんが、おもむろに星型のシールを取り出した。

「それは?」

「これを他の人の栞に貼るんだよ」

「ええ? なんでそんなことを」

タケモトさん曰く、その星型シールSNSにおける「いいね!」みたいなものらしい。

サービス利用者の間で交流を望む人がいて、それに応える形で提供し始めたんだとか。

「何てことなシールだが、ユルく繋がれるってんで意外とウケはいいようだ」

「まあ、悪くないアイデアだと思いますよ。ニーズには基づいている」

次 ≫
記事への反応 -

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん