家族とレストランで食事をしていたら、隣に座った知らない人たちが僕の友人の話をしていた。
厳密には友達の所属しているバンドの話だ。めちゃめちゃ好き!全部の曲がいい!そんな話をしてて、僕は食事の手が止まった。
友人は出会った時からからハチャメチャに歌が上手くて、ハチャメチャに顔が良かった。性格は変だった。
僕と友人は所謂仲良しグループに所属していた程度の関係で、一緒に旅行に行った事もあるが、二人きりで遊んだりした事はなかった。それも五年ぐらい前の話だ。最近は皆で遊ぶこともめっきりない。
彼のバンドがはじめてYouTubeに動画を上げたとき、カラオケでよく聞いたあのハチャメチャに上手い歌が同じように流れてきて感動した。ハチャメチャにいい歌だったから、数カ月で人気バンドになってしまった。自分の耳は正しかった、と変な誇りに包まれた。
今では街でもCMでも彼の声を聴くし、新曲が出ればトレンドを席巻する。海外でもニュースが流れていた。でも僕は他の友達がファンだと言っていても、自分が彼と知り合いであることは明かさなかった。いや本当は明かしたかったけど。当時の仲良しグループが誰一人としてそれを明かしていなかったから。
彼はすべてのSNSを消してしまったし(過去を掘られたりすると困るし当然だ)今はほとんど交流もない。厳密には連絡先を知っているけれど。有名人になったから連絡するなんて最低だし、特に話すこともない。
でも、今でもバンドのニュースを目の当たりにする度に、ドキドキしてしまう。僕は彼と知り合いなんだぞ、凄いだろう。なんて言いそうになる。何がすごいのか。他人の褌だ。ダサすぎるけども。
彼がバンドをはじめた直後、一度だけ彼から「今度のライブに来てほしい、君に見せたくて」とメッセージが来たことをとても良く覚えている。関係者としてライブに入るなんてはじめてだった。その頃はまあまあの箱だったけど、ステージ上の彼はすごく遠くて、綺麗で、やっぱり歌が上手くて、人種が違うんだな、と素直に思った。ライブが終わったあと、彼はたくさんの人に囲まれながらこっちにやってきて、「来てくれて嬉しい」と言った。それが彼に会った最後だ。
バンドの新譜をダウンロードしながら、何度もその光景を思い出す。僕のことを忘れているかな。顔を合わせたら同じように笑ってくれるかな。そんなこと考えること自体ちっぽけでダサい。
レストランの隣の客は我々より先に帰った。
アンタも充分立派だぜ
とりあえずアナタの文章が好きだ。切ない気持ちがジーンと伝わるよ。