2019-02-01

anond:20190201102428

「私は長い間、法律の通じない野蛮人の間で暮らしてきました」彼は言った。「それで私は自分法律だというやりかたが身についてしまった。どうか、ホームズさん、それをご理解ください。私はあなた危害を加えたいとは全く思っていません」――『悪魔の足』, アーサー・コナン・ドイル

でも、こんな言い訳リアリティを持つのヴィクトリア朝イギリスなのであって、21世紀日本ではありませんよ。たとえば、戦場ジャーナリストジェームズ・ナクトウェイという人がいますが、彼がそんなことをしたなんて話はついぞ聞きません。

私はこのナクトウェイのことでいつも思い出す話があります。彼が取材中、激昂した民衆になぶり殺しにされようとしている人を目の当たりにしたとき、彼はその人の前に立ち、「この人を殺さないで下さい」と言ったそうです。当然民衆はそれを聞かず、件の人物ボコボコにされていく。ナクトウェイも足蹴にされる。それでも彼は、自分から暴力行使することなしに言い続けたそうです。「この人を殺さないで下さい」と。「戦争はたった一人にさえ許されぬ行為を万人にする」と言った彼らしいエピソードです。

戦場ジャーナリストは、一般社会ではありえない暴力を目の当たりにします。暴力行使する側に人が生殺与奪権を握られ、絶対的支配される姿も目の当たりにすることでしょう。しかし、それを是とするのならば、その時点で彼はもはやジャーナリストではないのです。取材対象客観視しよう、その視点を何とかして死守しよう、そう誓いつつ取材を続けなければ、ただ暴力に加担しつつその存在喧伝するだけの存在になりさがってしまうのですから

ですからあの人には、そういう解釈を加える必要もないのです。ああいうことをやった段階で、暴力理不尽さを一般社会に伝えることで鬻ぐ資格を自ら放棄しているんですから。その彼の態度と行動を以て評価するだけで十分なのであって、それ以上何もいらないでしょう。彼の「理由」を考えても、彼と違って矜持をもって仕事をしている他のジャーナリストには何の足しにもなりませんしね。

記事への反応 -
  • 広河隆一という人権派フォロジャーナリストの裏の顔、みたいな記事がでている。 長年の性的な加害が明るみに出されつつあるが、この人は案外、裏も表もなかったのかもしれない。 ...

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