2017-10-25

父親背中にチャックがある

僕の父親背中にもチャックがある。そのチャックは薄汚れたような真鍮のような質感で、ご丁寧にYKKって書いてある。

僕が中学2年生の時に来ていたカーキ色のジャンパーのものが一番似ている。それにもYKKって書いてあった。

異変に気付いたのはある朝の日だった。夜起きた時に飲むために入れておいた水の上に小さな埃のようなものがたくさん浮いていた。

それは紛れもなく、夜の間に何者かが入れたものだと確信した。僕は誰にも悟られぬよう平静を装ってその水を捨てにいった。

幸いその時間はまだ誰も起きておらず、僕は薄ら笑いさえ浮かべながら1階の台所へと向かった。そのような液体を捨てることは僕にとっては造作もないことだった。

ただ一つ、当時の僕にとって予想外だったのは、2階に戻った時父親が起きてきたことだ。お、はやいな。彼はそう言った。

僕はうん、とだけかすかに頷いて自室に戻った。その日から毎日僕は、水を入れては毎朝確認するようになった。

まり浮いてない日もあれば、結構浮いてる日もあった。僕は誰がそれをやっているか、正体を見つけ出すまで負けないと心に誓った。

そいつはなかなか正体を表さなかった。だから僕は毎晩夜は寝たふりをして過ごすようになった。

正体を見つけ出すまでは諦められない。けれども奴らはなかなか姿を現さなかった。誰もいないのに朝になれば埃のような何かが浮いている。

僕は気が狂いそうだった。何者かが、僕の部屋に、姿も表すことなくやってきて、僕の飲むとわかっている水に何かを浮かべていく。

電気をつけておくわけにはいかない。電気をつけていると奴らはやってこないからだ。

僕は毎朝、平静を装ってその水を捨てる。それがルーティーンになった。そいつらのせいで僕は昼間も眠くて仕方がなかったが、

負けるわけにはいかないのでそれでも学校はいっていた。成績は元来よかった方のはずだったが、その頃からか成績も落ちていった。

知ってる。それも奴らの仕業であると気づくのに時間はかからなかった。とうとう奴らは、夜の時間だけでなく昼間も活動するようになったのだ。

お昼ご飯を食べてたときお茶のコップにそれは点々と浮いていた。後日僕は友達にあやまった。そいつが浮かべていると思ったが、どうやらそいつが正体じゃなかったらしい。

せっかく持ってきてくれたお茶に口をつけずごめん、と言ったとき彼がかすかに目を見開いたのを覚えている。多分彼は奴らの正体に気づいていたんだろう。

その頃までには、僕もその尻尾を掴み始めていた。僕もバカじゃyないので、何もただ寝たふりをしていたわけではない。

父親が夜の間にトイレに行くのは、奴らと交信しているからだった。夜の間にトイレに行って、奴らと交信し、僕の水にほこりに見せかけた次元紐を浮かべていた。

僕が飲んでないとも知らず、奴らは毎日無駄な苦労を用心深く重ねていったが、あるとき突然正体を表した。

父親を使って僕を病院に連れて行こうとした。その日、僕は父親が完全にあっち側の奴らになっていると悟り泣いた。

別の日、父親はまた僕を病院に連れて行こうとした。その頃までには僕は色々調べていたので、病院先生なら父親の正体を見抜けるだろうと思って、

作戦に乗るつもりでおとなしく付いていった。思った通り、先生は正体を見抜いた。もう家には戻らないほうがいいと言われて、

僕はその日からしばらく病院で過ごした。父親のことは諦めろと言われた。

病院では、それが浮かべられないようにと、先生は僕にパックに詰まった水をくれた。そのおかげで、僕は飲んだらキャップを閉めておけばいいようになった。

でもそれでも僕もやはり気になるので、時々は水を床に広げて奴らがこないか見張っていた。リノリウムの床が鈍く光を反射していた光景を僕は今でも鮮明に覚えている。美しかった。

それからしばらくして、先生父親が帰ってきたといったので僕は家に戻ることになった。確かに父親は元に戻っていた。

それで、先生が言うには父親じゃなくて僕が一時的にどうかしていたと言った。もちろんそのままそういったわけじゃない。遠回しに言っていたけれど、何を言いたいかは僕にはすぐわかった。

言い返そうかと思ったけど、ことが面倒になっても困るので僕はただ頷き、そうですか、と頷いていた。

父親おかしくなったらまたきなさいと言われたが、先生があっち側の奴らになっていることは明白だったので、うやむやに返事をしてごまかした。

今日まで僕はおとなしく過ごしてきた。何も変わったことはなかった。けれども最近気になることがあった。僕の父親背中にもチャックがある。

いつも服で覆ってうまく隠しているつもりかもしれないが、僕の目には明白だ。ただ、それを知っていることを悟られていは行けないから、どうしようか迷っている。

ニュースにどじったやつが出ていた。方法は正しかったのに、気づかれてはおしまいだ。

僕は気づかれない方法を知っているので、僕は正しくやってやろうと思う。これでその決意ができた。

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