深夜だったし、ちょうど読みたい漫画(『アフロ田中』シリーズと『のりりん』)があったのだ。
手続きを済ませて番号25番の部屋へ行った。少しは寝たかったので床タイプ(フラットタイプ)の個室だ。
さて、ネットカフェでは、個室に入る瞬間どうしても隣の個室がちょっと見えてしまう。
座ってしまえばなんてことないのだが、入る瞬間は目線が高く、隣が見えてしまう。これはネカフェを利用した人なら何となく理解していただけるだろう。
今回もそんな感じだったのだが、なんと左隣の個室のやつが全裸で寝ていた。
いや、正確には全裸ではなかった。ヘッドホンだけしていた。衣服は棚の上だ。
彼は都会の片隅のビルの、のぞけば見えてしまう仕切りの裡から、全身をありのままおちんちん含めて、その身体を虚空へ擲っていたのだ。
さてどうしたものか。というか聞きたいのだが、これはどうすればよかったのだろうか?
まずネットカフェで全裸になるのはOKなのか?ホテルでは勿論OKだ。でもネカフェでは?よくネカフェでオナニーする是非が問われるが、全裸はいいのか?そんなことを考えた。
マジで教えてほしい。
『中退アフロ田中』を棚から持ってきつつ、もう一度男を見る。すがすがしいほどにすやすやと寝ている。
一糸まとわずその身のままにささやかな安息のまどろみに湿潤し、一帯の持つ雰囲気と完全に自己を溶融させんがばかりだ。ネカフェ個室の曇りガラスが、全面肌色に染まっている。
初めの問いと関わることだが、この全裸野郎が全裸であることを知っているのは私だけのようだった。もし何かの拍子で誰かが近くを通ったら無言で親指を立てるしぐさで「隣を見ろ」と示唆したものだが、あいにく店員含めて誰も通りかからない。
『のりりん』を棚から持ってくるとき、だんだん慣れてきた私は彼のおちんちんを見てみた。自分のはまぁよく見ることもあるが、他人のはあまり見たことがなかった。小学生のときとかはそれなりに見たことあっのだろうが。
感想は、尾玉なみえ『少年エスパーねじめ』のヒロイン練川えすてる((練川えすてるは『ねじめ』の主人公「ねじめ」と友人のエスパー「へびくん」のおちんちんを並べてみる機会があって、そのときに男性器に個性があることに気付いた。私も気付いた。))の言葉をかりると「それぞれ個性があるう」だ。
朝になると、彼は消えていた。彼は自分が全裸だと気付いた時何を思ったのだろうか。「恥ずかしい」とか、「やってしまった」とか思ったのだろうか。今となってはわからない。ただ私は、漫画を読む以上のことを体験することができた。個性だ。彼はぬらりひょんのように、誰も知らないうちに鮮やかに空間を盗み出したのだ、と感じだ。まぁああはなりたくないが、これって結構すげえことだと思う。