まだギリギリ昭和ぐらいだった頃。ある八百屋さんが、沖縄で作られたパイナップルを東京に持ってきて売った。
それは奇妙な見た目で、大きな葉っぱを切り落として、固い皮に包丁を入れて、ちょっと苦労して食べなければならない代物だったが、物珍しさと美味しさで売れに売れた。
当時の子供には「パイナップルブーム」とでも言うべきものが起こり、子供の好きな食べ物の上位にパイナップルは君臨した。
それから10年以上が経った。同様の珍しい果物が多種多様に八百屋の店頭に並ぶ時代になっていたが、依然としてパイナップルの味を懐かしんで好きだと言う人は多かった。
八百屋さんはそんな彼らのために、久々にパイナップルを仕入れて売ることにした。
でももう沖縄ではパイナップルを作っていなかったから、フィリピン産のものを仕入れた。葉っぱは邪魔だろうと思い、あらかじめ落としてから売ることにした。
店頭に並んだパイナップルを、かつて"パイナップラー"だったっぽい青年が懐かしげに購入していった。
数刻後、ネットにはこう書かれていた。
「葉っぱがないなんて、パイナップルの伝統をなにもわかってない。おまけにフィリピン産、もう国産では作っていないとはいえ、こんな農薬まみれのパイナップル、本当のパイナップルじゃないよ。食ってはみたけど昔のやつの方が美味しい。こんなのをパイナップルだなんて言われてたまるか」
彼のアップした記事や、パイナップルの切り分けのムービーを見て若い人たちがコメントをする。
「色はきれいで見た目美味しそうだけど、いかにもフィリピン産て感じ」
「葉っぱはないけど皮は固そうだね・・・これだったら僕はバナナのほうが食べたいかな」
「えっ、お父さんがパイナップル美味しいよって言うから買いにいこうと思ってたんだけどやめようかな・・・」
確かに、そのパイナップルはかつてのパイナップルとは多少違っていた。しかしそれは今の流通状況のせいであり、味はむしろ今の子供の好みに合ったものであった。
さらに悪いことに、別の人が、買ったパイナップルに小さい虫がついていたのを発見して、それを大げさにネットに書いてしまった。
「農薬かけておいて虫とかww」
「パイナップル?ああ、あの虫ついてるやつw」
せっかく仕入れたパイナップルは売れ行きが悪くなり、売れ残りは値下げされ「おつとめ品」の棚に並んだ。
その状況がまたネットにはおもしろおかしく書き立てられる。
「大ブームだったはずのパイナップルがフィリピン産&虫騒動でファン激怒、さっそくおつとめ品にwww」
数年が経ち、そんな騒動も過去の出来事になった。
だがあの八百屋は、パイナップルで売り上げが出せなかったことによりつぶれてしまった。
最終的に売れ残ったパイナップルは缶詰に加工されて安価で売られ、少量がどこかの店頭に残っているのみとなった。
「フィリピン産パイナップルも美味しかったけど、どうして当時は不人気だったんだろう」
誰かがそう、ネットに書いた。
最初は恐る恐る、そのうちに沢山、あのパイナップルの話をしだす者が現れた。当時は「美味しい」と言いたくても言えなかったから。「沖縄産知らないにわか乙w」「フィリピン人乙w」と流されていたから。
「僕もあのパイナップル好きでした、初めて食べるパイナップルだったんです。大人は色々言っていたけど僕には美味しかった」
「虫付いてるって言われたけど、あんなのピンセットで取れば全然食えるレベルだよね」
「皮の切り方も慣れたら苦にならないですよね」
フィリピン産パイナップルは、パイナップル通には「隠れたグルメ」として評されるようになり、少量残っていた缶詰にはプレミア価格がついた。もう缶詰になっていたパイナップルには皮を剥いたりする苦労もなく、食べ方もネットを通じて広まっていたから誰もが美味しいと感じた。
現在、パイナップルは"果物マニア"を名乗る者には基礎教養と言える果物である。だが国産はいうまでもなく、フィリピン産のもの、しかも缶詰しか食べたことのない者が大半である。
パイナップル畑も、もう無い。
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こういう突っ込みはヤボなんだろうが、昭和の終わりごろパイナップルはコンビニで250円で買えるメジャーな果物だったよ。 椎名誠が全日本食えばわかる図鑑(1985年)で「こんなに安くて...
そもそも今でも沖縄でパイナップル普通に作ってるし。 ネットの評判と実際の売り上げはあまり関係ないし(ネットで悪評だらけでも売れたゲームがどんだけあると)。