2021-09-17

anond:20210831100920

桜庭一樹さんの「少女を埋める」を今頃読み終えて、いろいろ心を揺さぶられる思いがして、この作者の著作を初めて読んだので、どんな人なんだろうとネット検索をしていて、鴻巣友季子さんの評をめぐって議論が発生していたことを知り、ここにたどり着きました。

お二人の「論争」(?)、ざっとたどってみました。一応決着見たようですが……モヤモヤが残りました。

このモヤモヤ感についてこの場を借りてちょっと書いてみますね。

あなたも指摘されているとおり、桜庭さんは、「テキストにそう書かれていたかのようにあらすじ説明として断言して書いた」ということを強く主張されていますね。

でも、そもそもこの言い方が間違いだと思うのです。

鴻巣評の問題のくだりは、「テキストにそう書かれていたかのよう」に「断言」しているかと言うと、そうは断言できないかな、と。

だって鴻巣評のうち、「テキストにそう書かれていた」部分は「 」で括られていて、問題の部分は括られていませんからね。

そもそも評者の解釈だと読めなくもない。もちろん桜庭さんが言い、あなたが代弁するように、客観的にこんなお話だ言っているようにも取れる。

これは絶対どっちかだとは言えない書き方ではないでしょうか。

だとすると、桜庭さんの「テキストにそう書かれていたかのようにあらすじ説明として断言して書いた」という、この言い方が悪手だったかなーと思うんですよね。

鴻巣さんは、この主張にうまく乗っかって、「あらすじとは解釈だ」みたいな誰にも否定できない話に持っていった、

桜庭さんにとっては、持っていかれちゃった、ということになったかと。

それを踏まえてこの二人のやりとりを見ると、「論争」の決着点としては、鴻巣さんが大人対応をしたってところに収まっちゃいましたね。

二人して朝日ちょっと悪者にして、桜庭さんも手打ちにしたのかな?と。

でもモヤモヤが残りますよねー。

鴻巣さんは、桜庭さんが本当に言いたいことは何か、わかっていたと思うんですよね。

わかっていて、そこには対応しなかった。

しろ相手の言い分の、言わば言葉尻をとらえて反応してみせた。だから大人の」対応です。

そう、「不誠実な」対応でした。

なぜなら、そもそもあの作品をあの評文のなかにあいう形ではめ込むことが、あの作品にとって圧倒的に不当だからでしょう。

あの作品あんものではない力を持っているのに、弱々介護の話ってことにしちゃった、ご自分の読みの甘さ、いや読みじゃないかなー、表現力の至らなさかな

鴻巣さんは、自覚していたと思いますだって鴻巣さんですよ)。

……こんなことを想像します。

鴻巣さんは、あの作品を読んで、深く心を動かされた、でもそれを直ちにはうまく言語化できない……でもすごいことはわかる。

評言のなかの「不思議な」という言い方にもそれが感じられます。「不思議」を言葉にするのが評者の役割なのにね。

で、心のどこかに引っかかってて、弱々介護の話を書いているときに、「そうだそうだ」って桜庭作品を取り上げちゃったんじゃないかなー。

「みんなー、頼む、百回読んで」ってことを時評全部使って素直に書けば良かったんですけど、締め切り迫って言葉にできなかったのかな。

どこを切り取ろうと、とにかく取り上げて世に知らしめるだけでも、この作品の助けになる、助けてあげる、応援してあげる、みたいな驕りもチラチラ透けて見えます

この作品にいち早く注目した私、読み巧者よねーみたいなのもあるかも。

(いや、鴻巣さんぜんぜん嫌いじゃないんですよ、私は)。

私は、あの桜庭さんの抗議は要するに、「そんなふうに読み取らないで!ぜんぜん違う!」ってことだと思うんです。

鴻巣さんもそれは感じ取ったかな、と。

問題本質解釈のなかみなんでしょ。桜庭さんご自身も、ツイッターで、そういう怒りを垣間見せていますよね。

でもそのご本人が、ツイッターでこんな書き方をしちゃう

わたし懸念は、私小説として発表されたこ作品の評で、……」

でもこの作品私小説としては発表されていないんですよね(鴻巣さんは「自伝的随想のような」って勝手なこと書いてますけど)。

文学界』の当該号のどの頁にも「私小説」って書いてないもんね。

で、まあ、百歩譲って「私小説」だとしたらどうだと言うんでしょう?

西村賢太さんがどこかで、私小説からって、書いてあることが全部事実だと思う読者はバカ、って言ってた。

ホント? これ、私の解釈ですからね)

でも、あんなふうに、とてもナイーブな書き方をしてしま桜庭さんの思いもジンジンと伝わるんです。

何かこう、わが身の血と肉を自分で食って吐き出すような、そういう格闘の末の作品なんだろうなー、

そういう格闘を、あんなふうに一つの作品言葉で築き上げるってすごいなー、

それを「私小説」って言ってるんですよね、きっと。

そしてその格闘の焦点である母親との闘争和解(?)のギリギリ物語の、

その当の母親についてあんな切り取られ方をしちゃうとなー、そりゃ怒るよなー、って思う。

でも、怒りの焦点は、自分母親虐待人間って大マスコミ公言されたことじゃないよね

私小説と自任して書いているなら、こういう反応に対する覚悟は少なくともできていないとね)。

そうじゃなくて、鴻巣さんの作品矮小化に怒ってるんでしょ。

なにその読み方、バッカじゃないの? ぜんぜん違うし、って、桜庭さんはそれだけ言えば良かったのでは?

でもそれを〈正論〉という形で提起しちゃったから、鴻巣さんは、わかっていながらそっちに乗っかって反応した。

そういうことなんじゃないかなー。

桜庭さんって、冬子に似過ぎていますよね。

この論争まで、冬子の物語なかに書き込まれている小説のようだ。

記事への反応 -
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        • 記事の著者です。ごめんなさい、理解力がないのかもしれませんが、あなたの反論にすべて反論できてしまった気がします。 ・まず「「作中に描写がないこと」を「作品に書いてあるか...

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            • 記事の著者です。二つの水準で問題です。 一つはおっしゃる通りで、実在の人物である作者の母親についての誤解が生じるという点で問題です。大問題です。 もう一つは、鴻巣の行為と...

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                •  記事の著者です。  一つ目については、そもそも私は「現実での被害を想定して」一連の記事を書いていないので、読解できなくて当然です。桜庭自身が「実在の人物への加害」と「...

    • 私小説であることの問題とは不可分やろ。 桜庭は「現実に家族が虐待していた/されていた」と誤解されることを危惧しているんやからさ。

    • 逆に桜庭の未熟さを強く感じた一件だったな 現実の人間を題材に小説を書けば、対象に対する暴力になるのは当然なのに、いままでそれに気付いていなかったのか、という

      • 私小説が現実に与える影響について作者が責任を負うのはわかるが、第三者が誤読して、いわばデマを振り撒いていることに対して、どうして作者が責任を取らねばならんのか。

        • 元増田が曲解してるだけで誤読とは言えないレベルだもん

          • >また、鴻巣の解釈がどれだけ妥当であるかについては議論しない。 元増田に「誤読」の文言はありません。

            • 横増にはあるし、議論しないといってるだけで元増は鴻巣の文章を曲解してるよ いや、そもそも読まずに適当言ってる可能性もあるか

    • これはなかなかポイントを射ている文章やね。 国語増田がまた激怒あるいは嘆息しそうな ここぞとばかりに「いったん書かれたものを読者がどう読もうが勝手で、作者が文句をつける...

    • 「解釈である部分についてあらすじとして断定的な書き方をすれば、それは小説の「読み」を閉ざしうるからである。」 ・鴻巣友季子の「あらすじ」を読んで「誤読だ」と言う人々がい...

      • で?って感じ。 ・作品を未読の、鴻巣評が「誤読だ」と言われていることを知らない(「うちの地元の高齢者」のような)朝日新聞読者にとって「読み」が閉ざされうることには変わり...

        • 解釈が増えることは読みを閉ざすことにならない 読みを閉ざすことを批判するならそれこそ作者にも読みを閉ざす権利はない

        • ・小説を「未読」の人間に小説の「読み」などなく、閉じるも開くもない。 ・桜庭が「誤読」の訂正を「お願い」するのは理解するが、「私小説だから」は関係がない。私小説だろうが...

    • noteに公開されてるぶんの「少女を埋める」読んだ。 なるほど、冬子の母の「虐めてごめん」というのは、若い頃からずっと妻(冬子の母)が夫(冬子の父)を引っ張る形で家族を運営し...

    • 「ルックバック」のあらすじを書くのに、「タイムスリップする」「パラレルワールドに飛ぶ」「あり得たかもしれない世界を妄想する」と要約するのも解釈と不可分だと思うのよな。...

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