2010-06-05

ナイーブなエコとナイーブな反エコ

切込隊長ブログ記事「なんかエコ活動とかやってる奴がいるけどさ」に、ブクマを見るとほぼ全面支持なのに驚いたのでちょっと書いてみる。「エコ」がこれほど不人気となると正直、日本人類未来は暗いと思わざるを得ないからだ。またその一方で、そうなるのも仕方がないのかなと諦観する気持ちもある。理由は、グリーンピースをはじめとする「環境保護団体」には確かに、隊長が指摘するような非合理性と偽善性がつきまとっており、一般人が不信感を抱いて当然だからだ。

なお、私は環境問題専門家ではなく、市井の理工系の人間に過ぎない。ただ、多少の科学知識があればこの程度のことはわかるはずだということを示すためにこの記事を書いている。

物理のセンスのない「エコ」活動

隊長曰く、

なんかみんな、エコバッグ持ってたり、スタバとか逝ってマイカップ持ち込んで飲んでたり、してるけどさ。

本当にエコとか考えてるなら、風呂の回数減らせよ。一日おきでいいだろ。ドライヤーも使うなって話だ。マイカーぶんぶん通勤してる奴が、得意げになって使用済み天ぷら油の再利用とか言ってて馬鹿なんだろうかと思う。

これは全くその通りと言わざるを得ない。ここでは話を単純化してCO2の削減についてのみ考えることにすると、生活の中でCO2を直接的・間接的に最も排出しているのは自動車光熱費(特にエアコン)であるのは余りにも明らかなのだ。CO2は基本的に炭素を含むものを燃やしてエネルギーを取り出したときに排出される。そして、物理を少し学んだことがあれば自明のことなのだが、日常生活の中ではものを動かしたり熱したりというのが圧倒的にたくさんエネルギーを使うことなのだ。そして、50kgぐらいの人間1人を動かすために、1tぐらいの乗り物を使い、そしてゴムタイヤでアスファルトの上を走る自家用車というものがいかに、たとえば鉄道と比べればエネルギー効率が悪いかは明らかなわけで、エコバッグとかマイカップとかをやっていても車通勤をしているだけでおつりが来るぐらいのCO2を排出することになる。

つまり、個々人が「忍び難きを忍び、堪え難きを堪え」るような「エコ」活動は自己満足以外の意味はほとんどないのだ。

本来の「エコ」とは何か

では、本当の「エコ」とはなにか。上に書いたことからおわかりだろうが、エアコン冷蔵庫を高効率のものに買い換えさせ、人間やものが移動する必要を減らしつつ、できるだけ自動車依存しないように路面電車の整備や業務のIT化を進めていくといった社会構造の改革をするほかない。同時に、エネルギー源をできるだけ化石燃料依存しないように、その方面での技術開発も進めていくことだ。

要するに、「エコ」とはどこまでも今後のエネルギー資源戦略の話であり、マクロ経済都市工学、そしてエネルギー工学といった堅い分野の成果を積み上げていく話なのだ。本質的に、「忍び難きを忍び、堪え難きを堪え」たり、経済成長を否定したり、科学技術を悪と糾弾したりするような話ではない。

ちなみについでに言うと、温暖化CO2原因論に対する懐疑論跋扈している(どういうわけか、池田信夫氏を筆頭にラディカルなリバタリアンは判をついたようにそうなのだが)が、化石燃料の枯渇を見据えればどのみち取らねばならない対策は同じである。だからそのことは考えなくてよい。

もう一つ、隊長の書いている

環境を考えて、太陽電池パネルをつけました」とかさ。太陽電池パネル生産するのにまず二酸化炭素エネルギーロスがかかるっつーの。

はよくある誤解で、最近では太陽電池では余裕でエネルギーの元が取れるようになっている。

ニューエイジ運動による「エコ」の簒奪

ではなぜ、このような誤った「エコ」のイメージとそれにたいする反感がここまで広まってしまったのか。それは、グリーンピースに代表される環境保護団体の姿を考えてみるとわかりやすい。彼らの中には菜食主義、呆れるほど不合理な反捕鯨運動経済成長科学技術物質文明への否定的評価、そしてオカルトじみた「スピリチュアル」といったイデオロギーへの親和性が強く見受けられる。これは本来、上に述べたように「エコ」と必然的な結びつきはどこにもない。にもかかわらず、世間では「エコ」というと、もっぱらこうした偽善的で胡散臭い印象ばかりがはびこってしまっている。これはなぜなのか。

答えを書いてしまうと、これは近代現代欧米に特徴的な「ニューエイジ」と呼ばれるある種の疑似宗教社会運動の産物なのだ。ダーウィン進化論などの影響によりキリスト教的思想基盤が揺らいだ後、既存の価値観を否定し、オルタナティブを「東洋」に求める動きが西洋社会には発達した。それが「ニューエイジ」なのだ。西洋にはなぜか、日本のあらゆる事物を「禅」に結びつけ、むやみやたらと親日的な人(それでいて捕鯨のこととなると途端に北朝鮮まがいの反日戦士になる)が多いが、これも一つには「ニューエイジ」の影響である(日本がそれを利用した面も多分にある)。このほか、北京オリンピックへの反対運動の旗印がなぜ「チベット解放」ばかりで「ウイグル解放」ではなかったか、本質的に同じ宗教の分派であるイスラム教があれほど嫌われる一方で紛れもない異教徒であるダライ=ラマがなぜあれほど尊敬されるのか、そういったことにもこの「ニューエイジ」が背景にある。そしてついでに言えば、オウム真理教とか船井幸雄とかはたまた「水からの伝言」といった訳のわからないものは、日本にこうした「ニューエイジ」が「逆輸入」された結果であるといっても間違いではない(早い話、オウム真理教伝統的な漢訳の仏教用語ではなくサンスクリット語やパーリ語をカタカナ書きした用語を使っていたのはこのためだ。これが「阿吽真理教」であったり、ホーリーネームが「マイトレーヤ」や「マンジシュリー」ではなく「弥勒」や「文殊」だったらあれほど信者を集めたかどうか想像してみるとよい。オウム仏教原理主義でありつつ、伝統回帰ではなく伝統否定なのだ)。

少し脱線気味になったが、要するに「エコ」を敵視している人は戦う相手を間違えているのである。グリーンピースをはじめとする「ニューエイジ運動キモいことには何の疑いもない。ああいう偽善的かつカルト的なものは叩いておくべきだと私も思う。しかし、「エコ」全体を一緒くたに攻撃するのは誤爆もよいところなのだ。

おわりに

鳩山内閣エコ政策が嫌悪されたのはこう見ると当然の話だ。鳩山氏の「いのちを守りたい」というエコ政策は、本物の「エコ」のような国家戦略ではなく、もっとナイーブな感情に端を発していて説得力がまるでなかったからだ。鳩山夫人のオカルト嗜好ともども、これも「ニューエイジ」の影響の産物である面が多分にあり、国民偽善臭を嗅ぎ取ったのはおそらく当たっている。

しかし、エコは本来国家戦略であり、未来にわたる豊かな生活を保つために不可欠である一方で、日本国益にも繋がる可能性をも秘めているのだ。上に述べたように「エコ」のためには重工業技術力が強く求められるのだが、これは日本の得意分野であって、中国韓国といった新興国に対して優位を比較的強く持っている分野でもある。同様の事情を抱える独仏が「エコ」に梶を切り、オバマも「グリーン・ニューディール」を提唱しようとしているのはこのためなのだ。日本政府がこの方面に消極的なのは、重電産業に身を置くものとして実に歯痒いものがある。どうか、もっと事実を冷静に理解し、お涙頂戴物語としてではなく国家戦略としての硬派な「エコ」の推進の世論の形成に手助けをしてくれる人が一人でも増えて欲しいものだ。

追記

誤植訂正。b:id:yoh596さんご指摘どうも。

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    ブクマ見てきたけどほぼ全面同意とは見えなかったなあ。 ただ、あの流れは「じゃあ人間減らせばいいんじゃね→じゃあ働かない奴から死んでもらおう→あれ、これって国家的エコロジ...

  • http://anond.hatelabo.jp/20100605195535

    ではなぜ、このような誤った「エコ」のイメージとそれにたいする反感がここまで広まってしまったのか。 いやいや、エコに反感抱いてるのは切込み隊長やはてな村の住人みたいなク...

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    ダウト!! 最近では太陽電池では余裕でエネルギーの元が取れるようになっている。 余裕ではないです。設置補助金や倍電価格2倍といった助成を行わないと、普及が進まないレベル...

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      元増田です。 あなたが言っているのは全部「お金」の話です。私が元記事で書いたのは「エネルギー」の話です。 「エネルギーの元が取れる」という表現のどこがおかしいかわかりませ...

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        あぁ、本気で製造に使われる消費エネルギーだけ考えていたんですね。 そうすると、私が言いたいのは「エネルギー」だけ見ててもダメですよ、ということです。 例えば、使われている...

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          シリコンってレアメタルだっけ?って一瞬本気で考えてしまった。

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          太陽電池製造時において、資源量が問題になるだなんて聞いたことがない。多結晶Si型に対して薄膜Si型が・・・という文脈ならわからなくもないけど、いずれにおいても、シリコンの量...

          • http://anond.hatelabo.jp/20100606123349

            それに、エネルギー量や資源コストと、経済的なコストが相関を持つのは、その技術がある程度の平衡点に達してからの話です。 こういう妄想をぶちまける人がいるのかがわからない...

            • http://anond.hatelabo.jp/20100606142351

              これを妄想というなら、どこが間違ってるのか、他サイトへのリンクでいいから説明してくれないとなんともいえない。 自分も含めてそう思っている人は多いはず。 どこが妄想なの?

          • http://anond.hatelabo.jp/20100606123349

            シリコンの量なんて地球の質量の1/4以上あるんだし 地殻の1/4じゃなかったっけ? よく知らないけど、地球全体の質量を考えたら鉄が主体になりそう。 あと、元素がたくさんあるから...

          • 今そこにある資源危機

            http://anond.hatelabo.jp/20100606123349 太陽電池もいろいろあって,資源が枯渇しないと思ってると意外と足下をすくわれる. たとえば,結晶Si系太陽電池は,Siの資源量は事実上無限だから盤石...

            • http://anond.hatelabo.jp/20100606223139

              そっち方面には疎いので、勉強になります。 ただ、炭素税はどうかと思うな。だって、正直CO2の量なんてどうでもいいから(って言っちゃうと言い過ぎだけど)。むしろ、電気が安定...

              • http://anond.hatelabo.jp/20100606232731

                横だけど、税金かけて使用エネルギーを減らすという方向性なんじゃないの?

                • http://anond.hatelabo.jp/20100606232951

                  どういう発想に基づいて、その考えが出てくるのかまったくわからない。 無意味に税をかければ、経済発展が他国より遅くなる。それだけのこと。 30年スパンで原油価格が上がるのは...

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                    税金かけて使用量を減らして採掘可能量を温存できないか?って話じゃないの?

                    • http://anond.hatelabo.jp/20100613014508

                      税金かけて使用量を減らして採掘可能量を温存できないか?って話じゃないの? だから、一国だけでそれをやったら(採掘可能年限は数%伸ばせるかもしらんが)、生産コスト全般が跳...

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          元増田です。言いたいことはわかったつもりですが、そういう話をしているつもりではありません。 製造エネルギーと必要な資源の量はおおよそ「お金」で見積もれるというのは、経...

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            「太陽電池なんて造れば造るだけ無駄、エネルギーをどぶに捨てているようなものだ」 というのは現時点だけ見れば正しいですよ。 発電機の特性を無視した場合でも、つまり需給バ...

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              元増田です。 「太陽電池なんて造れば造るだけ無駄、エネルギーをどぶに捨てているようなものだ」 というのは現時点だけ見れば正しいですよ。 発電機の特性を無視した場合で...

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                亀レスで申し訳ない。 だからそれもお金の話ですよね?エネルギーではなくて。 要するに、この際お金のことは無視してエネルギーが「赤字」かどうかといえばそうではない、とい...

        • http://anond.hatelabo.jp/20100606105803

          お金で換算するというのは分かるんだけど、ただ単純に比較すればよいと言うものではないだろう。 原油とか採掘系のコストがエコ的な目で見たコストとして適切なのか、不動産とかは...

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            あなたが言うことは一部正しいです。ですが、あなたに足りないのはエコの定義です。 温暖化はもしかすると人類に大ダメージを与えるかもしれません。でも、私の感覚では、エネル...

            • http://anond.hatelabo.jp/20100606231719

              で、ニューエイジが復活してくるわけですなあ。 金持ちだけエネルギー使うなんでずるい!ってんじゃなくて、少ないエネルギーで楽しく過ごしましょう、ってのも悪くはない。

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