たとえば、詐欺師がおばあちゃんとかの財産を奪ったり、上が手柄を奪い取るみたいなトピックに対して、弱肉強食だから自分が強くなるしかないみたいな話をしていたとする。
そこに「いや、弱肉強食じゃなくて適者生存だよ」と突っ込んでくる人がいる。なるほど、たしかにダーウィンの進化論的には間違っていない。環境に適したものが生き残るわけだよね。
でも「弱肉強食なのってキツいからなんとかしないといけないよね」「今つらいから解決しないといけないよね」という文脈で「弱肉強食じゃなくて適者生存だよ」って口をはさむ意味を理解せず横から言われると、「環境に適応できない貴様は死ね」「悪い方が適者だよ」と言ってるようにしか聞こえない。たとえば「彼女にイケメンの方がいいって言われて振られてつらい……」みたいな状態の人に「適者生存だから仕方ないよ」って声かけるのサイコパスでしょ。「弱肉強食だから仕方ないよ」の方が寄り添ってる感あるでしょ。適者って何。死んだ人は不適だったって言いたいわけ?
適者生存それ自体はマクロな世界で見た生物論としては正しいけど、社会の活動の中で「それは弱肉強食じゃなくて適者生存だよ」って言うのはヤバい。弱肉強食にはそれなりの悪のイメージがついていて「弱いものを食い物にする悪しき価値観」みたいな意味もこめて使える言葉だけど、適者生存にはいいとか悪いとかそうしたものがない。「環境に適応したものが生き残るよ」って、そりゃそうで、適者生存を覆せないからだ。「弱肉強食ではない社会にしていこう!!」とは言いやすいけど、「適者生存ではない社会にしていこう!!」なんて言えないでしょ。
適者生存っていうのは、強い方の傍若無人さを正当化し、立場をフラットにする意味もある。
そうやって「そうか!自分が悪いんではないんだ!環境に適応できない相手が悪いのだ!」っていうふうにこじつけて他者を踏みにじりまくって行き着いた先が帝国主義じゃないのかと思う。優生思想もそう。
おそらく、弱肉強食っていうワードを聞いたときに、どこかで聞きかじったような適者生存について「ここだ!!!適者生存の話をするぞ!!!!自分は知識がある!!」と思って言いたくなってしまうんだろう。正直、高校の歴史や生物の授業で習ったことを謎のタイミングで言われても「はぁ??今その話してないから」「人の話聞いてる?」としか思えない。
弱肉強食という言葉を使うとすぐに「適者生存だ!!!!!!」というふうに警察してくるので「人工無脳か?」と感じる。
自分がよく弱肉強食というワードを使うからか、よく適者生存おじさんと遭遇する。みんなも、弱肉強食という言葉を使うとどこかから駆けつけてくる適者生存おじさんには気をつけてくれよな。