小学校の帰り道、友達とバスに乗っていたら強烈にトイレに行きたくなった。
たまりかねて途中下車すると、友達が「私が通ってる塾がそこにあるから、トイレ借りれるよ」と教えてくれた。
その塾は地元では有名な進学塾だが、看板のひとつもない白い建物で、一見して塾には見えなかった。
内部はとても整然としていて病院のようだった。玄関には観葉植物としてヤシの樹が飾ってあった。
肝心のトイレは講義室の隅っこにあって、室内では少なからぬ人数の小学生児童が自由に走り回っていた。けれどうるさくはなくて、むしろみんな静かだった。
トイレのドアはウェスタン調の両開きで、ほとんどドアの役目を成していないけれど、あまり気にせず用を足した。トイレを出ると数名の児童がよそ者を見るような目でこっちを見ていて、居づらくなってさっさと外に出た。
近所のコンビニまでたどり着くと、店の前で職場の上司であるMさんに会った。私はよほど疲れた様子だったらしく、Mさんは「アイスをおごってあげる」と言ってくれた。
店内に入ると、ほとんどの棚がガランとしていて、まるで閉店セールの後みたいだった。照明もほとんどついていなくて、大きな窓から差し込む自然光だけが内部を照らしている。
店員は二名だけで、レジ前でボソボソと何か話し込んでいた。冷凍庫をのぞくとハーゲンダッツが三つほどあったので、そのうちの一つをMさんに買って貰った。
自転車に乗って去ってゆくMさんを窓から見送っていると、四人組の女性たちが店に入ってきた。みんなスッピンなのに服は派手でアンバランスだった。そのうちの一人と目が合うと、彼女は親し気に話しかけて来た。
「私たちバンドやってて、今リハーサルの帰りなんだ。だから打ち上げのためにお菓子予約しといたの」
そう聞いてはじめて、このコンビニがいつの間にか予約制になっていたことを知った。道理で棚がガラガラなわけだ……と納得した。
アイスを持って店を出ると、四人組はお菓子がパンパンに詰まった大きなレジ袋をそれぞれ両手に提げて後をついてきた。くっついて歩いているのに、彼女たちはやたら大声で会話をする。コードギアスの話をしているようだったが、私はそのアニメをほとんど観ていないし、会話に入っていく気力はなかった。
疲れた気分で手の中のハーゲンダッツをじっと見つめた。『ルルーシュ』をうまく発音できない彼女たちの会話を聞き流しながら、「もしかしたら、これはハーゲンダッツに見せかけて実はハーゲンダッツじゃないのかも……」と哲学的な疑いをもった。
おわり