サークルに才能の塊みたいな先輩がいた。とにかく誰よりも耳がよくて、一度聞いた曲を再現できるような人。ピアノ以外にもギター、ベース、ドラムの他管楽器も演奏できたし、なにより先輩の音楽はとにかく感情にあふれていて、人柄もよく、誰よりも楽しそうに楽器を鳴らす姿は部員みんなの憧れだった。あまり家が裕福じゃなかったそうで、美大なんてもってのほか。仕方無しに家から近いこの大学に特待生として通っていたと後々聞いた。
先輩は大学を出たあと、大学のレベルでは考えられないくらいいい会社に就職した。先輩は頭も良くて努力家だったから、会社でも出世を見込まれたみたいで、入社して数年後には海外へ行ってしまった。忙しくて音楽に触れる時間なんてなかったようで、この前会ったときにはただのアラサーのサラリーマンになってた。何よりここ数年楽器に触れてないと聞いてショックを受けた。
先輩が大学を出たのと同じくらいのタイミングで、私の組んでたバンドが徐々にあちこちでライブできるようになった。ツアーだって経験したしそれなりの規模のフェスにも乗った。ただ、自分たちの音楽は先輩がちょろっと弾いた即興の曲に勝てる自信がない。実際に先輩は学生時代に映画やドラマの曲を幾つも手掛けてたし、部室で適当にセッションしたときのあのフィーリングは明らかに才能のある人のそれだった。社会に出ても音楽を続けていたら、絶対に私達より有名になったはずなのに。すごく悔しい。
こういう人が何億人もいるんだろうねえ
音楽以上に社会か会社に利益を与えてるでしょ
それって「あまり家が裕福じゃなかった」って自分で文章内で書いてるのになんで辞めちまったんだって聞いてるの?
才能がある人っていろいろ出来ちゃうからねえ。 別に音楽じゃなくてもよかったんだろ。