俺は『秒速5センチメートル』を新海誠の最高傑作だと信じて疑わずにいる人間だということを、予め言っておく。
『君の名は。』、去年の夏に公開されるまで、久々の新海誠の新作映画ということで心底楽しみにしていた。
公開前に発売した『小説版 君の名は。』は発売日に買ってその日のうちに読んでいたし、神木隆之介も好きだったから、これはもう間違いない、
『秒速5センチメートル』以来の大物が来る、と期待を胸に公開を待っていた。
でも、その時から、心の片隅で、ほんの少しだけど嫌な予感はしていて、それは公開後に的中した。
俺は新海誠の、あの陰鬱で薄暗くて救いようのない世界観が好きなんだ。
ドロっとした恋愛観で語られる男主人公の背中が好きで、やっぱり俺は『秒速5センチメートル』が大好きなんだと思う。
そうして、公開直後に胸をときめかせて見に行った『君の名は。』にはかなりのショックを受けた。
これまでのような人を選ぶ作風ではなく、エンタメに富んだ、大衆的で王道の展開に、ベタベタなラブコメディをぶち込んできた。
開始30分ぐらいでそれがはっきりとわかると、目を背けたくて、我慢できなくて外に出たくてどうしようもなかった。
でも、これはしっかりと目に焼き付けて、この事実を自分に刻み込まなければならないと、拷問に近いような感覚で最後まで見届けたのを覚えてる。
これまでと一貫しているのは、背景美術の美しさだけであった。
背景美術は確かに、素晴らしかった。前作の『言の葉の庭』以上だったと思うし、とどまることを知らないようだった。
この酷い映画を見終わった、劇場からの帰り道、俺は少しずつ「新海誠は死んだ」ということを理解し始めた。
過去作を全否定した『君の名は。』、しかし俺とは反対に世間の評価は大絶賛だった。
世間はこの酷い映画を"新海誠の代表作"と称し、過去作には目もくれずにエンタメの監督としてもてはやした。
違う、そうじゃないだろ。
『君の名は。』を見て、それを新海誠だと思っている彼らのほとんどは、馬鹿である。阿呆である。
『君の名は。』を気に入ったミーハーな彼らは、同監督の『秒速5センチメートル』を見て、失望するのである。
鬱だ、暗い、つまらないと吐き捨てる。全くもって、ありえない。
『ほしのこえ』『雲のむこう、約束の場所』を経て、『秒速5センチメートル』は完成した。
で、それを何で今言うの?