そして最後の相手は、またも俺にとって知っている人物でありながら、未知数の相手でもあった。
「やあ、マスダ」
「……センセイ。どうも」
センセイは1回戦、2回戦ともに派手さはないが堅実な出題と解答をしており、中々の実力者であることが窺える。
それに、まだ“何か”を隠し持っている気もした。
こちらも手の内をまだ全ては見せていないとはいえ、かなり厳しい戦いになる予感がした。
……傍目にはすごくレベルの低い戦いにしか見えないのがツラいところだが。
お互い隙を見せない迅速な解答を徹底し、一定の簡単度を保った出題をし続けるも決め手には欠けていた。
こうして膠着状態が続き、あと1問か2問でお互いの持ち点は0になるというところまできていたのである。
「それではマスダさん、問題をどうぞ」
「これは算数の問題です。なぞなぞではありませんし、引っ掛け問題でもありません。また、自己啓発じみた概念的な話でもありません。では問題です、1+1は?」
センセイはすぐさま答える。
「2だ」
「正解です」
センセイが答えるの自体は予想通り。
このクイズバトルのセオリーは、コンセプト通り「如何に簡単な問題を出すか」ってことなのは明らかだ。
例えばこの「1+1」という問題は、普通に考えるなら答えは「2」だし、実際その通りではある。
だが簡単すぎたり陳腐すぎるが故に、かえって付け入れられる可能性があるのだ。
例えば「田んぼの田」だとか、或いは「3にも4にもなる」だとか哲学的な答えを出す奴もいる。
サイコロで目当ての数字を出したければ、重りをつけるだなんてことをするより、他の数字を消せばいいのだ。
解釈に悩む余地すら与えない、たった一つの答えにたどり着かせる、整備された道を作ってやったのだ。
次にセンセイがどんな問題を出してくるか見当がつかない。
できればこれで終わらせたい。
「……76!」
「ちぃっ!」
思いのほか点数が伸び悩み、俺は思わず舌打ちをする。
かなり自信のある問題だったが、どうやら内容の念押しをしすぎたせいで、かえってややこしいと思われてしまったようだ。
ここで決めることができなかったのは無念だが、まだ勝負は決まっていない。
センセイの問題を最速で答えれば、簡単度がよほど高くない限り俺の持ち点はギリギリ残る。
そして次の俺の出題でチェックメイトだ。
俺はまばたきや呼吸すら忘れそうなほど、ただ問題に答えることに全神経を集中させた。
賞金は、絶対に俺が貰う!
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