2017-05-27

[] #25-6「ライトクイズ

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それに対し、センセイはこの土壇場でも落ち着いた物腰で、坦々と問題を口にした。

だが、その出題に俺は自分の耳を疑った。

「答えは350です」

いや、出題というよりは、正解発表をしてきたのだ。

俺は面食らった。

一応、その後にセンセイは問題の内容を語っていくのだが、あまりの衝撃に俺は頭に入ってこなかった。

それでも、無理難題ではない。

しろ、とても簡単なのだ

なぜなら答えは分かりきっているから。

だが、俺は答えを出すのに数秒以上の時間をかけてしまう。

センセイの考えた「最も簡単問題」に、完全に不意を突かれたからだ。

「そんなのありかよ……」

そう呟かずにはいられなかった。

結局、この問題が決め手となり、俺は自分の持ち点をゼロにしてしまうのであった。


今回の大会はセンセイの優勝で終わった。

賞金は惜しいが、俺の負けであることは認めざるをえない。

何より、最後あん問題を出してくるセンセイの胆力を称えずにはいられなかった。

「いやー、やられました。あん問題の出し方をするなんて」

「まあ、一度限りの方法だがね」

「確かに、もう一回やってきたらすぐに答えるでしょうしね」

「それもあるが……」

「他にも何か?」

「まあ……出る杭は打たれるものさ」

センセイが言っていたことは、それから後に分かった。

以降の「ライトクイズ」で、参加者はセンセイと同じ問題の出し方を真似し始めたのである

結果、答えをあらかじめ明言して問題を出し合うだけという、混沌を極めつつも膠着の一途を辿ったのだ。

番組サイドはマンネリにならないよう、ルールを細かく変えてそれを防ごうとした。

しか参加者はその都度ルールの穴を突いて、“如何に答えを知っている問題を出し合うか”にのみ注力する流れに。

それは“簡単問題を出し合う”という「ライトクイズ」とは似て非なるものだったのだ。

そんなことが数回続いた後、とうとう番組サイドはこの「あらかじめ答えを言う」という問題方式のもの禁止することを決めたのだった。


それからしばらく経った、とある日。

番組の方はマンネリ気味になりつつあったが、俺とセンセイは飽きもせず「ライトクイズごっこ」に興じていた。

サッカーオフサイドはなぜ反則になったか分かるかい

「うーん……オフサイドゲームになるからでしょうか」

「まあ、悪くない答えだ」

「では次は俺から。最も簡単問題とは」

「最もつまらない問題だ」

「……というか俺たちのやってる『ライトクイズ』、何だか趣旨が変わってしまってませんか?」

「……そうだな、ハハハ

(#25-おわり)
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