それに対し、センセイはこの土壇場でも落ち着いた物腰で、坦々と問題を口にした。
だが、その出題に俺は自分の耳を疑った。
「答えは350です」
いや、出題というよりは、正解発表をしてきたのだ。
俺は面食らった。
一応、その後にセンセイは問題の内容を語っていくのだが、あまりの衝撃に俺は頭に入ってこなかった。
それでも、無理難題ではない。
なぜなら答えは分かりきっているから。
センセイの考えた「最も簡単な問題」に、完全に不意を突かれたからだ。
「そんなのありかよ……」
そう呟かずにはいられなかった。
結局、この問題が決め手となり、俺は自分の持ち点をゼロにしてしまうのであった。
今回の大会はセンセイの優勝で終わった。
賞金は惜しいが、俺の負けであることは認めざるをえない。
何より、最後にあんな問題を出してくるセンセイの胆力を称えずにはいられなかった。
「まあ、一度限りの方法だがね」
「確かに、もう一回やってきたらすぐに答えるでしょうしね」
「それもあるが……」
「他にも何か?」
「まあ……出る杭は打たれるものさ」
以降の「ライト・クイズ」で、参加者はセンセイと同じ問題の出し方を真似し始めたのである。
結果、答えをあらかじめ明言して問題を出し合うだけという、混沌を極めつつも膠着の一途を辿ったのだ。
番組サイドはマンネリにならないよう、ルールを細かく変えてそれを防ごうとした。
しかし参加者はその都度ルールの穴を突いて、“如何に答えを知っている問題を出し合うか”にのみ注力する流れに。
それは“簡単な問題を出し合う”という「ライト・クイズ」とは似て非なるものだったのだ。
そんなことが数回続いた後、とうとう番組サイドはこの「あらかじめ答えを言う」という問題方式そのものを禁止することを決めたのだった。
番組の方はマンネリ気味になりつつあったが、俺とセンセイは飽きもせず「ライト・クイズごっこ」に興じていた。
「まあ、悪くない答えだ」
「……というか俺たちのやってる『ライト・クイズ』、何だか趣旨が変わってしまってませんか?」
「……そうだな、ハハハ」
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