化粧室の鏡の前で、腰に手を当てて軽く伸びをしたら
十月からの衣替えで久々に取り出した、襟が邪色に染まった長袖を
ゴシゴシ汚れ落としをつけて洗濯機に三回かけて干して、
袖を通したときに、きついなとは思ってたのだ。
ツルツル点の二の腕のラインとか、椿のように花開いたボタンダウンの襟足とか。
だが、どれも似たような感じだったし、着れるからいいやと今週の土曜から
ローテーションを回し始めて、二回目の今日、胸ポチが浮かんでることを知った。
加齢した人間は一日の何処かで肩を回し、背筋を伸ばしたくなるものである。
私のような、体重が三桁までカウントダウンを切った化け物ならなおさら。
配置転換をして日が浅く、気軽に声をかけてくれる知人が職場にいなかったのは
最悪のタイミングであった。ただでさえ、歳をとった人間にとって、社会とは
海にひっそりと浮かぶ孤島のようなものである。似たものを探すのはただでさえ難しく、
心の架け橋をかけられるような人となると尚更であった。
容姿に無頓着のまま、だらしなく歳を取ったとはいえ、これは別である。
女性ホルモンが人よりあった私はマイ•サンの長さと引き換えに乳房が発達していた。
中休みに上半身裸で体操をする習慣(今もあるのか、凄いな……)が
ある学校に通っていた中学時代、ひたすら上半身を鍛えたものである。
ボディビルに出場できる歳になる頃には残念にも、もう辞めてしまっていたが、
その、なんだ、過去話で長くなったが、つまり今でもわりとこの胸周りは
そうだ、思い出した、このコンプレックスを前回刺激されたのは
あの人は人の劣等感を的確に刺激する術を知っている。
あのぽっちりを浮かべないようにするにはどうすれば良いか。
下着を厚くする、あたりがいいのかな、とそう思っている。
……注文した。日曜には届くであろう。