親と大喧嘩をして、自分で払うから親元を出たいと懇願し、機関保証で借りたお金だった。
私は都会の大学に行って、立派な会社に入って、バリバリ働くんだ。
インターンにも行きまくって、ビジコンで優勝したりした。みんなに優秀だね、と言われたし、自分でもなんだかそんな人間になれた気がした。
給料がよく、高そうなスーツを着たギラギラしたおじさんがたくさんいる会社だった。
親の反対を押し切ったことが、全部報われると思った。
奨学金だって、毎月少しづつちゃんと支払うことができると思っていた。
その後、一年希望留年して必死に就活して、ハウスメーカーで営業になった。
一年目で、パワハラ上司にあたり、夜眠れなくなり、メンタル破壊され、鬱になった。
何もかも自暴自棄になって、信用情報がどうとか、どうでもよくなった。
一度払わなくなると、もっとどうでも良くなり、なんともお気楽なことに、そのまま記憶を葬り去った。
時々は、派手な色の封筒でハッとさせられたが、見て見ぬ振りをした。開けもしないでゴミ箱に隠した。
休職を終えると、パワハラ上司とは違う部署で、仕事に復帰した。仕事内容は変わらず営業だったが、死ぬ気で働いた。3ヶ月間に一度休む程度で、朝から夜中までとにかく働いた。
見た目には気をつけていても、見えないところはどうでも良くなった。
歯科検診も逃げ回った。
だんだんもうどうでも良くなった。
何本か歯が抜けてしまったが、やっぱり歯医者には行かなかった。
小綺麗にしているのに、奨学金は踏み倒すし、虫歯だらけ。20代なのに歯も抜けている。
まともな大人じゃないのに、ちゃんとしてるふりをして暮らした。
私と大違いだった。
多少の貯金はできたが、今度は貯金が減ってしまうのが惜しくなった。
貯金もできない女だと思われたくなかった。
週に一度定時に上がって歯医者に通った。
定時に帰ったのは新人研修以来初めてのことだった。
その頃には、営業として売れるようになっていたので、
せっかく売れるのに勿体無い、とか、誰かと不倫して内勤に異動させられたとか、陰でも表でもいろいろ言われたが、まともな人になりたかった。
一年かけて、毎週歯医者に通い、人前で口を開けられる歯になった。
その後、ありがたいことに子を授かり、産休に入ってから、しばらくして、見覚えのある派手な色の封筒が届いた。
ずっと目を背けてきた督促状だった。
十数年ぶりに、きちんと開封し中身を読んだ。
利息が膨れ上がっていたが、それを見た瞬間なんとも言えない気持ちになった。
その日のうちに、電話をかけてお詫びを伝え、振り込みをした。
会社では、周りからはストイックだと思われていると思うが、それはただの外面で、嫌なことからとにかく逃げたい、上辺だけ綺麗にしてる自分から、ほんの少し変われた気がする。
ダメな大人になってしまったし、子育てをちゃんとできる自信はない。私のような人間に生まれてくる子がならないことを祈って、この体験をここに記します。
読ませてもらいました ありがとうございます
読みました。遠くからヨシヨシするよー。