2022-12-23

滞納していた奨学金を払った話

10年以上放置していた奨学金を一括返済した。

親と大喧嘩をして、自分で払うから親元を出たいと懇願し、機関保証で借りたお金だった。

私は都会の大学に行って、立派な会社に入って、バリバリ働くんだ。

インターンにも行きまくって、ビジコンで優勝したりした。みんなに優秀だね、と言われたし、自分でもなんだかそんな人間になれた気がした。

そうして、とあるコンサル会社内定をもらった。

給料がよく、高そうなスーツを着たギラギラしたおじさんがたくさんいる会社だった。

親の反対を押し切ったことが、全部報われると思った。

奨学金だって、毎月少しづちゃんと支払うことができると思っていた。

リーマンショックがあり、卒業直前に内定取り消しにあった。

その後、一年希望留年して必死就活して、ハウスメーカー営業になった。

全然優秀な私に見合わない仕事だと思った。

一年目で、パワハラ上司にあたり、夜眠れなくなり、メンタル破壊され、鬱になった。

何もかも自暴自棄になって、信用情報がどうとか、どうでもよくなった。

一度払わなくなると、もっとどうでも良くなり、なんともお気楽なことに、そのまま記憶を葬り去った。

時々は、派手な色の封筒でハッとさせられたが、見て見ぬ振りをした。開けもしないでゴミ箱に隠した。

休職を終えると、パワハラ上司とは違う部署で、仕事に復帰した。仕事内容は変わらず営業だったが、死ぬ気で働いた。3ヶ月間に一度休む程度で、朝から夜中までとにかく働いた。

給料は増えるがとにかく時間がない。

見た目には気をつけていても、見えないところはどうでも良くなった。

虫歯ができても、何本も放置した。

歯科検診も逃げ回った。

痛くてもロキソニンで誤魔化して、とにかく仕事をした。

ナッツを噛んでいたら、笑った時に見える歯が欠けてしまった。

歯医者に行ったら怒られる気がして放置した。

だんだんもうどうでも良くなった。 

何本か歯が抜けてしまったが、やっぱり歯医者には行かなかった。

小綺麗にしているのに、奨学金は踏み倒すし、虫歯だらけ。20代なのに歯も抜けている。

まともな大人じゃないのに、ちゃんとしてるふりをして暮らした。

そんな私にも、彼氏ができて結婚した。

彼は虫歯は一本もないし、奨学金もきちんと払っていた。

私と大違いだった。

多少の貯金はできたが、今度は貯金が減ってしまうのが惜しくなった。

貯金もできない女だと思われたくなかった。

30を過ぎたころ、この人の子供を持ちたい、と思い立った。

営業から内勤に変えてもらった。

週に一度定時に上がって歯医者に通った。

定時に帰ったのは新人研修以来初めてのことだった。

その頃には、営業として売れるようになっていたので、

せっかく売れるのに勿体無い、とか、誰かと不倫して内勤に異動させられたとか、陰でも表でもいろいろ言われたが、まともな人になりたかった。

一年かけて、毎週歯医者に通い、人前で口を開けられる歯になった。

その後、ありがたいことに子を授かり、産休に入ってから、しばらくして、見覚えのある派手な色の封筒が届いた。

ずっと目を背けてきた督促状だった。

十数年ぶりに、きちんと開封し中身を読んだ。

利息が膨れ上がっていたが、それを見た瞬間なんとも言えない気持ちになった。

その日のうちに、電話をかけてお詫びを伝え、振り込みをした。

会社では、周りからストイックだと思われていると思うが、それはただの外面で、嫌なことからとにかく逃げたい、上辺だけ綺麗にしてる自分から、ほんの少し変われた気がする。

ダメ大人になってしまったし、子育てちゃんとできる自信はない。私のような人間に生まれてくる子がならないことを祈って、この体験をここに記します。

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