2019-10-14

[] #79-7「高望みんピック

≪ 前

高望み、上昇婚が困難とされる理由は何だと思いますか?」

「そりゃあ、ハードルが高いせいで飛び越えられる人が少ないからでしょう」

ちょっと違います。あれの最大の問題点は“高さそのもの”ではありません」

「どういうことです?」

コンサルタントは数年前に担当した、とある相談者の話をした。

「その人は高学歴高収入の方を希望していました」

典型的高望みってやつですね」

「いえ、私から言わせれば、これは高望みと言い切れません。数名マッチング可能でしたから」

「マジか」

そうして希望に合った数名とそれぞれマッチングさせたのだが、なぜか結果は全滅。

相手の用意したハードルを跳べなかったというわけでもない。

最終的に「縁がなかった」と断わったのは、いつもその相談者側だった。

意味が分からない。条件は満たしているのに、なんでそいつは断わってばかりなんです」

「……どうも“その他のハードル”で躓いたようなんです」

「はあ? なんすか、そりゃ」

年齢なのか、容姿なのか、声なのか、仕草なのか。

具体的に何がダメだったのかは説明してくれなかったという。

「どこかしら相性が悪かったのでしょうけれど、本当の理由は分かりません。恐らく、当人もよく分かっていないのだと思います

そいつは“その他のハードル”とやらを妥協する気がなかったんですかい最初にでかいハードルを立ててるくせに」

実際、遠回しにそう訊ねたことはあったらしい。

だが、その人にとって高学歴高収入というのは最低限の条件でしかなく、その上で他のも跳び越えてほしかったんだとか。

「なるほどねえ。ハードルの高さが問題ではないと言った意味が分かりましたよ」

そこまで話を聞いたあたりで、コンサルタントの言いたいことをタケモトさんは理解した。

「つまり高望み最大の問題点は、“その他のハードル”を撤去していないことにあると」

「そうです。高いハードルが一本や二本あるだけなら高望みではありません。問題は全体の“数”なんです」

当然、相手側の設けたハードル自分も跳ばなければならないという側面もある。

高低差の激しい、膨大な数のハードルをそつなく跳ぶことが出来て、その人と結婚したいと思える人間

冷静に考えれば存在するわけがないと分かる。

よしんばいたとして巡り合うことすら難しいか、とっくに別の人と結ばれているだろう。

こちらも仕事ですから、建前は『上昇婚高望み大いに結構何が悪い?』と言います。でも現実問題は是非で決まるとは限りません」

火のついていないタバコを強く噛みしめ、コンサルタントは首を横に振った。

最初から気づくか、後で自ずと諦めるなりハードルを下げるなりしてくれたらいいんですけどね……そうさせない外的要因もあるんです」

「外的要因?」

「長年コンサルタントをやっていますと、稀に上手く結婚までかこつけられたケースもでてくるんですよ。宝くじを毎回買い続ければ当たるのと同じ理屈です」

しか当人たちは、それを宝くじだとは考えない。

多少の運はあると思いつつも、巡るべくして出会い、結ばれたんだと心根では考える。

そうして自分イレギュラーであることに無自覚なまま、上手くいっていない人に説教することがあるらしい。

上手くいっていないのは高望みだからではない、と。

説教とまではいかずとも、『自分は上手くいった』と吹聴する人もいます。それも大きな要因ですね」

「……あれ? でも、それって」

タケモトさんはそこで引っかかりを覚える。

そして、そう感じるであろうことをコンサルタントは分かっていた。

「察しの通り、私の会社はその“たまたま上手くいったケース”を宣伝に使っています。私も当時は上手くいったことばかり喜んで、その事に気づかず……不甲斐ない話です」

実のところ、タケモトさんもその宣伝に釣られたクチだった。

ダイエット商品のビフォアフターに騙されるが如き愚行である

次 ≫
記事への反応 -

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん