2024-10-12

村人「ここも…ダメか」

日照りがどれほど続いたのか、見渡す限りの大地はすべてひび割れ、乾き切っていた。

旅人がその村に辿り着いたとき、草も木もすべて色を失い、まるでその村全体が時を止めたかのような静けさに包まれていた。

いつから人の気配が消えたのか、門の軋む音さえも耳を刺すほどの無音に支配されていた。

「ここも…ダメか。」

旅人は、乾ききった唇を手で覆いながら小さく呟いた。

何日も歩き続け、たどり着く村はどこも同じ。

干ばつは大陸全体に広がり、旅人希望を抱いて訪れる村はすべて、壊滅的な状態だった。

それでも旅人は、一縷の希望を捨てきれないまま、また一歩、また一歩とその村の中へ進んでいった。

崩れかけた家々、破れた屋根、荒れ果てた畑。

その光景は何度も見たはずなのに、今回は特に胸が痛んだ。

足元には枯れた作物の残骸が散乱し、踏みしめるたびにパリパリと音を立てる。

それはまるで、この村が過去の栄光痕跡を声もなく訴えかけているようだった。

しかし、それでもどこかに生き残りがいるかもしれない。

そんな淡い希望に突き動かされ、旅人は村の中心部へと進んでいった。

だが、どの家も扉は閉ざされ、窓から覗く光景も、ただの空虚な闇。生気がない。人の温もりも、生活痕跡も、まるで何年も前から止まったままだったかのようだった。

「ああ、やっぱり…誰もいない。」

旅人は肩を落とし、重い足取りで畑の方へと向かっていった。何の期待もなく、ただその場を後にするために。

しかし、そのときだった。どこからか、小さな物音が聞こえた。

旅人は思わず立ち止まり、耳を澄ませた。風の音でもなく、枯れた枝が揺れる音でもない。

何かが動いた気配だった。旅人の心は急にざわつき、音のした方へと急いで向かった。

畑の中央に足を踏み入れると、そこには一匹の動物がいた。

旅人最初、それがただの枯れた植物の影かと思った。

動物の体は、驚くほど皺だらけで、皮膚はカサカサに乾燥し、まるで生きている気配はなかった。

まるで地面に吸い取られたかのように、その動物は畑の一部と化していた。

「…生きているのか?」

旅人は恐る恐るその動物に近づいた。

それはこれまでに見たこともない動物だった。

まるで長い時間を経て、風と太陽さらされ、干物のように乾燥しきっている。

カピカピで、普通なら息絶えていてもおかしくない姿だった。

しかし、旅人が手を伸ばそうとした瞬間、その動物は微かに動き、かすれた声でこう鳴いた。

バラァ…」

その声は、どこか遠くの井戸の底から響くような、風に紛れて消え入りそうな音だった。

まるで旅人に見つけてもらうことを待ち望んていたかのように。

旅人不思議気持ちでその動物を見つめた。

何もないこの地で、どれだけの時間を過ごしてきたのか想像もつかない。

しかし、それでもこの小さな命は、生きることを諦めなかったのだ。

旅人はその場に膝をつき、動物の頭をそっと撫でた。乾燥しきった皮膚の感触が指に伝わる。それでも、動物は微かに息をしている。

「…お前の名は、カピバラか」

動物はもう一度、静かにバラァ…」と鳴いた。

旅人はその瞬間、確かにその動物が笑っているように見えたのだった。

これがカピバラといった動物の、名前の由来である

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