そのころは今みたいにカラフルなランドセルを持っている子はほとんどいなくて、ほぼ「男は黒、女は赤」の時代だった。なので女なのに青ランドセルだった私は男子にバチボコにからかわれ(やーい男女みたいなやつ)、女子には笑われた(わーあの子なんで青いランドセルなの? 変なのークスクスみたいなやつ)。
そもそもなぜ青ランドセルだったかというと、母が「赤なんて普通でつまらない、赤だけは絶対ダメ」と言ったから。
それまでも幼稚園でバッグや巾着等の小物を集団購入するときは、だいたい女子用の赤ではなく男子用の青か黒のものを購入されていた。私はめちゃくちゃ嫌だったが、母が「ほらーこっちのほうがシックで素敵じゃない?」と言うのでニコニコして「そうだね!そう思う」と言っていた。その場で母に不機嫌になられるよりは、嘘をついて褒めてもらった方がよかったからだ。
だがランドセルとなると話は違う。6年間もそれで過ごすわけだし、周りから死ぬほどからかわれることなんてそれまでの短い人生ではっきりわかっていたことだった。だからランドセルを買うために来たデパートで母が「赤はダメ」と言ったとき、めちゃくちゃに抵抗した。「赤がいい!」と言って泣き叫び、「それなら買わないよ!」と脅す母親と掴み合い、さらなる脅しのため駐車場に引き戻された。それを何度か繰り返し、私はとうとう観念した。
駐車場との何度目かの往復でランドセル売り場に戻り、私は怒りと絶望に震えながら青いランドセルを選択した。母が後から言うところによると「赤以外ならピンクでもオレンジでも何でもよかった」らしいのだが、幼稚園年長さんだった私は「赤がダメ=青か黒」だと思っていた。で、冒頭に戻り、私は周囲からバチボコにからかわれたわけだ。
青いランドセルを背負った私を見て、大人たちはたしかに「あらおしゃれ」みたいな反応をしていた。しかしそれが何だと言うのか。同級生から死ぬほどからかわれターゲットにされた私は確実に性格が歪んだし、今でも母を恨んで許していない。
たぶん青いランドセルを買ったことが、本当に自分の欲しい色を選んでのことだったら話は違っていた。自分の選択の結果だし、親を逆恨みすることはあっても大人になった時はさすがに納得して、自業自得だったなと思っていると思う。私の場合、青いランドセルは事実上強制されたもので、結果が最悪だったからこんなことになった。私は大人になるまで心のどこかで母親のことを「いつかは裏切る人」「結局自分のことしか考えてない人」と思っていた。
これを読んだ未就学児の父母・祖父母の皆様におかれましては、お願いだから何色であっても子供が本当に欲しい色のランドセルを買ってあげてほしい。どんなにダサくてもだ。どんなに自分の固定概念から離れていてもだ。お願いします。欲しい色のランドセルを買ってもらえなかった年長さんの私より。