すごく精神的に参ってる時、いつも思い出す人がいる。
日焼けした肌と丸顔とそんなに高くない身長。ひょうきんもので、野球部のキャプテンだった。目が丸くて、坊主で名字に丸が入ってたので、まるはげ、と呼んでいた。ひどいあだ名である。同窓会に長いこと参加してないから、中学時代のまま背格好も止まってるけど、今は髪も生えているんだろう。
そんな彼と、放課後の教室でたまたま2人きりになったとき、世間話してたのに急に相手が黙りこんで、『おまえってさぁ』と言った。
その続きを中々言わないので、変なところで察しのよかった私は『あれ、もしかして告白しようとしてるのかな?』と思って、友達だと思ってた異性に告白される気まずさを回避するために、横向いて窓の景色を見ていた。
紫色に染まっていく空と鉄塔と屋根が遠くに見える。まだ彼は黙ってるし、やだなぁ友達のほうが気軽に話せるのになぁ何でみんな中学になったら付き合うとかカップルとかになるんだろうなぁ、てかもしかして他の男子と組んで私のことからかうつもりなのかなぁとか考えてた。そしたら、彼がわたしの耳に聞こえるくらいの音量で、『おまえ、名前かわいいよな』と言った。
思わず、『え?』と聞き返したら、
『いや、おまえの名前、かわいくて、よくんらんけどすげえいいと思う』と続いた。
拍子抜けしたのと同時に、名前が可愛いなんて言われたのは人生で初めてだったのですごく衝撃を受けて、でもすぐさま『名前だけかよ』と毒づいた。その後の会話は覚えてない。
その後も普通に時々世間話するクラスの友達として過ごして、普通に卒業した。
彼はいま警察官になって、もうじき結婚するらしい。(地元の友達の話)
卒業してから一度も会ってないし、きっとあの日言ったことなんて彼は覚えていないだろうけど。
それでも彼は、あの日の背格好のまま、私が消えてしまいたいと思って沈んでる時に必ず『でもおまえ、名前かわいいよ』って言って笑ってくれるのだ。
いいはなしだなー