3年くらいずっと片想いをしていた。馬鹿みたいに愚直にただひたすらその人だけを見ていた。声も仕草も優しさも誠実さも全てが眩しかった。叶うなら隣に立っていたかった。
あの頃、あの人のことを好きな私は自分のことが好きになれないままで、でもそんな自分を見てほしいなんてあまりにも我儘過ぎるから、だからちょっとでも自分のコンプレックスをなくそうとした。歯並びが悪かったから矯正を始めて、メガネもコンタクトに変えて、メイクも苦手だったけれど少しでも綺麗に見えるように頑張って、服装とか髪型とか見た目に気を配るようにした。今までそんなことに興味もなかったから私にとっては大きな進歩の一つで、そんなことをしている時間がいつのまにか楽しくなっていた。
そうしているうちに周りの人から「最近綺麗になったね」って言われることが増えて、自分の努力は無駄じゃなかったんだなって嬉しくて、そして気付けば鏡で自分の顔を見るのが少しだけ怖くなくなっていた。自分にちょっとだけ自信が持てるようになった。
私はこれまで男の人と2人で出かけたことが一回もなかった。だから半年前、あの人から「一緒に飲みに行こう」って言われた時は嬉しかったし、初めて飲みに行った日のことを一生忘れないと思う。近況を話したりしただけだったのだけれど、とても幸せで尊い時間だった。それから月一ペースで2人で飲みに行くようになった。バレンタインにチョコも渡した。あの人は嬉しそうに笑ってくれていた。
私はやっぱりあの人に好きだと伝えたかった。あの人と2人で飲みに行けて、たわいもないことを話して、そんなことができているだけでも十分幸せではあったのだけれど、ちゃんと好きだということをあの人に知ってほしかった。だからこの気持ちを出来るだけそのまま伝えようと決めて、手紙を書いた。
その日はいつもみたいにお互いの話をして、笑いあって、帰り際ちょっとしたプレゼントと一緒に手紙を渡した。その時触れたあの人の手は暖かくて、なぜか泣きそうになってしまった。好きだって最後まで言葉では言えないままだった。
次の日はどうしても落ち着かなくて、引かれたんじゃないかとか不安になりながら一日中そわそわしていた。そんな風に一日を過ごして、夜ようやく返事が来た。
「実はずっと片想いをしている人がいて、その人のことがどうしても好きです。こんな中途半端な気持ちでは付き合えません。ごめんなさい。でも気持ちを伝えてくれて嬉しかったし、これからも大切な友人でいたいです。」と。
ああ振られたんだって頭では分かっていたけれど、まだ夢を見ているようでまるで現実味がなくて、頭が痛くて心は重くて喪失感が酷かった。何を失ったのかもよく分からないのに。ただただ涙を流していた。
どうして。私は最初から一人で何も失っていないはずなのに、ただあの人の恋人になれなかっただけなのに、どうしてこんなに辛くて悲しいのだろう。
それから何をしてもあの人のことばかり考えてしまいそうで、ただ好きな曲を聴いて好きなアニメを見て一人でカラオケに行って好きな歌を歌って、そして思い出したかのようにあの人からの最後のメッセージを眺めていた。今のうちに十分にあの人からの言葉を受け止めておかないといけないような気がしていた。そんなことができるのは今しかないと思った。
そうして一週間近く経って、やっぱり私はあの人のことが好きだしすぐにどうこうできないけど、あの人が私を大切な友人だと言ってくれるのならばそれでもいいと思い始めていた。もう2度とあの人に好きだと言うことはないだろうしあの人の1番にはなれないけれど、それでもあの人にとっての大切な一人でいられるのならそうありたいと思った。だから。
だからもうこの想いは手放そうと思う。